2023年5月20日土曜日

名古屋めし(2)

 【味噌カツ】

敗戦直後の混乱期、名古屋のある屋台でのことです。客が串かつをどて煮につけて食べたところ、これが美味いということになり、店主が味噌カツとして売り出します。屋台は大繁盛し、味噌カツの名店「矢場とん」になります。これは矢場とんが唱える味噌カツの起源です。味噌カツの発祥については複数の説が混在しています。総じて、名古屋めしは大好きですが、味噌カツだけは、どうにも理解できない面があります。味噌だれをトンカツの上に掛ける点が気になります。自分の好きな濃さで味噌だれを付けて食べるのがいいと思うわけです。矢場とん本店で、味噌だれをトンカツに掛けずに、別皿でもってきてくれ、と店員さんに頼んだことがあります。断られました。そこで、店長に聞いてこい、とごり押ししてみました。結果的には、キッパリ断られました。どうもそのこだわりが理解できません。

味噌カツの発祥については、自分なりの推論があります。戦後の混乱期、質の良い豚肉など入手困難であり、鯨カツをトンカツと称して出す店も多かったと聞きます。トンカツの味を濃い味噌味で誤魔化したのが、味噌カツの発祥なのではないかと思っています。現在の矢場とんのトンカツは、味噌がなくても十分以上に美味しいものです。トンカツの表面すべてに味噌だれをかける必要はないと思うわけです。というわけで、味噌カツだけは、あまり好んで食べません。(写真出典:aichinavi.jp)

【焼きとんかつ】

焼きとんかつは、名古屋めしとして語られることが少ない食べ物です。店が少なく、名古屋人でも知らない人の方が多いかも知れません。しかし、名古屋以外で見かけることのない立派な名古屋めしです。焼きとんかつは、細かいパン粉で薄い衣をまとわせた豚肉を鉄板で焼き上げたものです。ドイツのシュニッツェルとよく似ていますが、薄くのばした肉を使うのではなく、トンカツと同じ厚い肉を使います。トンカツよりも、香ばしく、あっさりとした印象です。名古屋らしく、味噌だれかソースを選べます。シュニッツェルの元になったのが、フランスのコートレットです。明治期、日本に伝わるとカツレツと呼ばれ、後に日本独特のトンカツに進化します。焼きとんかつは、いわば先祖返りしたトンカツと言えます。

焼きとんかつの有名店と言えば、発祥の店としても知られる中村区鈍池の「とんかつオゼキ」です。大きな店ですが、昼時はいつも満席状態です。焼きとんかつが、名古屋でもあまり知られていない理由の一つは、オゼキの立地だと思われます。名駅の西側は、江戸期まで湿地帯であり、明治期になると遊郭が作られ、笹島界隈はドヤ街になります。秀吉生誕の地でもありますが、人気(じんき)の良くない土地だったわけです。(写真出典:walkerplus.com)

【手羽先】

「世界の山ちゃん」の躍進で、有名になった感のある手羽先の唐揚げですが、元祖は「風来坊」です。大坪健庫が、人気メニューの甘だれをくぐらせた唐揚げを持って、北九州から名古屋へ出てきたのは昭和38年だったようです。名物は、鶏の半身を揚げた”ターザン焼き”でした。ある日、発注ミスで丸鶏が入荷せず、たまたま目にとまった手羽先を唐揚げにして甘だれをつけたところ、これが美味いと客の評判になったと言います。甘辛い味、手軽さが相まって、酒のつまみとして大人気になりました。骨を割って、歯でしごいて一気に食べるスタイルも広まりました。大坪は、風来坊の味を守るために、フランチャイズを拒否し、弟子を育て暖簾分けすることにこだわったと聞きます。胡椒が効いた山ちゃんの手羽先に比べ、風来坊はやや甘さが勝っています。この甘さは、いかにも九州らしいな、と思います。(写真出典:hotpepper.jp)

(つづく)

マクア渓谷