2023年4月28日金曜日

丼物

後輩が、福井県へ行って、名物のソースカツ丼を食べたら、美味しかったと言うのです。それは、ソースカツ丼ではなく、とんかつが美味しかっただけでしょ、と返しました。私はカツ丼好きですが、どうにもソースカツ丼だけは理解できません。カツ丼は、とんかつ、出汁、玉子、たまねぎが醸し出す絶妙なハーモニーが魅力だと思います。ソースカツ丼は、ご飯にとんかつを乗せただけであり、とんかつ定食と変わらないと思います。実は、海鮮丼も苦手です。まずは、食べにくいと思います。寿司か刺身定食でいいのではないかと思います。それにしても、日本人は、ご飯のうえに何かを乗せて食べるのが大好きです。ご飯のおかずになるものなら、なんでも丼物になるとも言えそうです。

丼物は2系統あると思います。丼用に食材を調理してご飯にのせた料理系、そして既存の料理をご飯に乗せた上乗せ系です。料理系は、カツ丼、牛丼、親子丼、他人丼、玉子丼、木の葉丼、衣笠丼等々でしょうか。上乗せ系でも、うな丼、天丼、焼鳥丼、豚丼などは、タレをご飯にまぶすことで一体感を出しています。ちらし寿司から派生したと思われる鉄火丼や海鮮丼も、酢飯を使うことで、ただの上乗せ系とは異なるように思います。他の丼物は、おおむね上乗せ系であり、ビフテキ丼、麻婆丼、天津丼、中華丼などが代表でしょう。上乗せ系は、性格からして、どんどん新メニューも登場します。しかし、プルコギ丼、唐揚丼、餃子丼あたりになると、丼物を名乗ること自体、如何なものかと思います。

かなり珍妙なものとしてカレー丼があります。それってカレーライスだろ、とつっこみたくなります。ただ、カレーライスとは、似て非なる物です。蕎麦屋で出てくる正しいカレー丼のルウは、デンプンを出汁で溶いたあんにカレー粉を足したものです。カレーとも、カレーうどんの汁とも異なります。いずれにしても、広い裾野を、さらに広げ続ける丼物ですが、その起源は室町期に生まれた「芳飯」だとされます。刻んだ野菜や乾物をご飯に乗せ、その上に味噌汁を掛けたものです。いわゆる汁物の”ねこまんま”です。中国の泡飯が伝えられ芳飯になったとも言われます。しかし、ご飯に、何かを乗せたり、汁を掛けたりして食べることは、米食を始めてすぐの頃から、自然発生的に、各地で行われてきたことだと思われます。

18世紀、英国のサンドイッチ伯爵が、賭博を中断することなく食事できるようにサンドイッチを発明したと言われます。しかし、パンに何かを挟んで食べることは、丼物と同様、古代から、各地で行われていました。サンドイッチも丼物も長い歴史があるわけですが、現在、我々が親しんでいる丼物の姿は、19世紀の江戸で誕生しているようです。うな丼、天丼、深川丼あたりから形を成したようです。かけ蕎麦は、蕎麦にめんつゆを掛けるから、かけ蕎麦と呼ばれます。せっかちな江戸の職人たちが、蕎麦にめんつゆをぶっかけて食べたことから生まれたようです。丼物も、全く同じ発想から誕生したわけです。上品な食事からはほど遠い、いわば江戸のファストフードだったわけです。

上品な食べ物ではないから、マナーなどいらない、というわけでもないように思います。食事を手早くかきこむための丼物ですから、ゆっくりと味わって食べるのは、ちょっと違うように思います。過日、行列のできる豚丼の店で、スマホをいじりながら食べている若者がいました。また、男女の二人連れが、会話しながら食べ、食べ終わった後もぺちゃぺちゃと話していました。許しがたいマナー違反だと思います。単に行列に配慮しろというだけでなく、早さが身上の丼物は、もくもくとかきこむことが暗黙のルールだと思います。なんなら、噛まずに飲み込む位の勢いが欲しいところです。批判を覚悟で申せば、本来、女性に丼物は不向きな食事だと思います。ことに恋人と一緒の時なら、なおさらです。(写真出典:kagome.co.jp)

マクア渓谷