2023年1月16日月曜日

一の宮

氷川神社
フォー・コーナーズは、アメリカ西部の4州の境界線が一点に集まる場所です。それがどうしたという話であり、しかも何もない砂漠地帯ですが、全米50州を巡ることを目標としている人にとっては、一度に4州分を稼げる大事な場所です。全米50州制覇は、かつて日本からの駐在員たちの間でも流行っていました。旅の楽しみ方は様々ですが、このようにテーマを決めて、その達成を目指すという人たちも多くいます。宗教的な巡礼旅は、古くから世界中にあります。近年では、世界遺産巡りの旅もあります。国内では、四国八十八カ所巡りをはじめ、江戸五街道巡り、奥のほそ道巡り、映画等の聖地巡礼等もあります。先日、全国一の宮巡りをしているという人の話を聞きました。

一の宮とは、律令体制下、国司が任地で最初に参拝すべき神社であり、いわば社格を表わすものです。朝廷の意向ではなく、各地で最も広く信仰されている神社が選ばれたようです。平安期から鎌倉期にかけて、順次整備されました。ただ、明確な文書が残っていないことから、一部には論争もあり、一国に複数の一の宮が存在する場合もあります。また、国府が存在しなかった北海道、沖縄、東北の多くには、一の宮がありません。そこで”全国一の宮会”は、一の宮の存在しない県に、「新一の宮」を設けました。結果的に、現在、一の宮とされているのは、全国102社、108カ所とされます。対馬国にも、隠岐国にも一の宮は存在しますので、全ての一の宮を巡るとなれば、相当に時間がかかることになります。

最初に一の宮巡りをしたのは、江戸初期の神道家・橘三喜だとされます。23年をかけ、全国の一の宮に参拝し、『一の宮巡詣記』全13巻を著しました。これをきっかけに、庶民の間にも、一の宮巡りが広まったとされます。平成の世になって、「全国一の宮巡礼会」が作られ、御朱印集めの旅として確立されたようです。一の宮巡りは、いわゆる巡礼とは異なり、宗教的に体系化された修行ではありません。誤解を恐れずに言えば、一種の観光旅行です。まとまった時間が必要というわけではなく、週末などの空いた時間で気軽に行けること、さらに、いわゆるパワースポット・ブーム、あるいは御朱印集めブームも相まって、近年、一の宮巡りは人気が高まっているようです。

東京を代表する神社といえば明治神宮ですが、御祭神は明治天皇であり、古い神社ではありません。また、730年に創建された神田明神は、江戸総鎮守とされますが、一の宮ではありません。律令体制下、隅田川以西の東京は、武蔵国に含まれていました。武蔵国の一の宮は、大宮の氷川神社です。関東を中心として全国に氷川神社がありますが、すべて大宮の氷川神社を分祀したものです。その創建は、社伝によれば、紀元前5世紀、文献によれば4世紀中葉ということになります。関東最古の神社とされるのは久喜市鷲宮の鷲宮神社ですが、それに次ぐくらい古い神社なのでしょう。いずれも、その創建には初代武蔵国造となった出雲族が関わっているようです。氷川は、出雲の簸川(ひかわ)由来ともされます。

新潟県に赴任中、何度か越後一の宮の弥彦神社にお参りしました。弥彦山をご神体とする弥彦神社の境内は、太く高い杉林に囲まれ、神聖な空気で満たされています。古い歴史を誇る各地の一の宮も、同じような境内を持っています。御利益もさることながら、一の宮の空気感が、人の心を清々しくさせる効果は大きいと思います。それが敬虔な気持ちにつながり、人々は、心静かに手を合わせることになります。いわゆる神頼みではなく、自らの精神状態をリフレッシュする効果も、とても大きいと思います。だとすれば、全国一の宮巡りは、なかなか良い旅のように思えます。(写真出典:tabippo.net)

マクア渓谷