2022年11月28日月曜日

カツ丼

盛岡の東家は、わんこそばの名店です。店内には、いつも、わんこを重ねる軽快な音、わんこの枚数を伝える仲居さんたちの元気な声、そしてお客さんたちの笑い声で溢れています。わんこそばは、フェスティバル・フードだと思います。そもそも東家の蕎麦は、とても美味しいと思います。特に麺つゆは、私の好みです。実は、東家は、カツ丼も美味しいことで知れらます。今般、盛岡で昼食を食べる機会があり、普通に考えれば、盛岡三大麺、冷麺、じゃじゃ麺、わんこそばのなかからチョイスすべきところですが、あえて東家のカツ丼を食べました。やはり、美味いわけです。温かい蕎麦の小椀も付けて、美味しくいただきました。

勝手な持論ですが、カツ丼は、出汁が命だと思います。東家は、麺つゆが美味しいので、カツ丼も美味しくなるわけです。東家に限らず、美味しい蕎麦を出す蕎麦屋のカツ丼は美味いものです。カツ丼の始まりには諸説ありますが、有名なのは、山梨県発祥説と早稲田発祥説です。山梨説は、甲府の蕎麦屋「奥村本店」で、明治末期には、提供されていたという話です。早稲田説は、「三朝庵」という蕎麦屋が、キャンセルされた宴会で余った豚カツを卵とじにしたという話です。面白いのは、いずれも蕎麦屋から始まっていることです。豚カツは、カトレット由来の洋食ですが、カツ丼になると、出汁が登場して、完全な和食になるわけです。

カツ丼は、丼ものの代表だと思いますが、不思議なことにカツ丼専門店は、極めて希です。豚カツ屋があるからだろうとも考えられますが、豚カツの有名店のメニューに、カツ丼はありません。蕎麦屋も、まったく同様です。有名店には、カツ丼というメニューはありません。従って、最近の都心では、カツ丼は簡単には食べられなくなっているのです。また、かつて、カツ丼と言えば、駅前の食堂や住宅街の蕎麦屋の定番メニューでした。ところが、いつの頃からか、駅前には、牛丼やハンバーガーなどの各種チェーン店が軒を並べるようになり、一般食堂や町中華の姿は消えていきました。

昔、家に来客があると、寿司、蕎麦、丼ものといった店屋物をとることが多かったように思います。そういった出前ニーズに応えて、住宅街の蕎麦屋は、カツ丼、天丼といった各種丼もの、そしてラーメンまでもメニューに揃えてあったものです。蕎麦屋のラーメンは、いわゆる中華ラーメン系ですが、あっさりとしたいい味を出していたものです。住宅街の蕎麦屋も消えつつあります。その背景には、家への来客が減ったからではないでしょうか。来客が減少した理由は、複合的なものなのだと思われます。例えば、かつて、中元・歳暮は持参するものであり、正月の挨拶も年始回りが基本でした。また、核家族化が進んだことも背景にあるのでしょう。

いずれにしても、依然、丼ものの頂点にありながら、カツ丼が食べにくくなるとすれば、これは大問題です。ちなみに、カツ丼には、ソースカツ丼なるものもあります。福井、駒ヶ根、会津若松、群馬県などで有名ですが、その起源は、卵とじと同じくらい古いようです。しかし、個人的には、ピンときません。ソースカツ丼が美味しいというのは、単に豚カツが美味しいと言っているのと同じだと思います。出汁によってカツと卵が一体化し、化学反応を起こすからカツ丼なのだと思います。カツを乗せただけでは、料理とは呼べないように思います。実は、人気の海鮮丼にも同じような印象を持っています。(写真出典:momoya.co.jp)

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