2022年10月8日土曜日

干し柿

杣の木漏れ日
中津川名物「栗きんとん」の季節になりました。中津川の栗きんとんは、栗にわずかな砂糖を加え、栗の水分だけで炊き上げ、巾着絞りにしたものです。栗は、しっとり炊き上がっていますが、若干の粒々を残した絞り方が絶妙です。栗の上品な甘さを堪能できる最も良い食べ方だと思います。中津川の栗きんとんの名店は2店あります。「すや」と「川上屋」です。「すや」は、もともと元禄元年創業の酢屋だったそうです。対して「川上屋」は、これまた江戸末期創業という老舗です。「すや」のホロホロ感、「川上屋」のしっとり感、といった違いでしょうか。私は「すや」派です。

中山道の宿場街と言えば、 江戸風情を残す妻籠宿と馬篭宿が人気ですが、中津川も重要な宿場街でした。その中津川の和菓子の名店の一つが、「満天星(どうだん)一休」です。満天星とは、ドウダンツツジのことです。満天星一休と言えば「杣(そま)の木漏れ日」が有名です。東濃名物の甘い市田柿の干し柿のなかに、高千穂産の栗を使った栗きんとんを詰めたものです。ねっとりとした甘さに上品な甘さという、美味しい物2つの組み合わせです。美味しくないわけがありません。ほぼ反則技の世界です。毎年11~3月の期間限定商品です。かつては、店頭販売のみだったので、なかなか口に入れることはできませんでした。近年は、お取り寄せも可能になっているようです。

中国原産といわれる柿は、実に不思議な果物です。柿には、甘柿と渋柿があります。甘柿は、突然変異種であり、発見されたのは、13世紀初頭、川崎の王禅寺だったと記録されています。つまり、柿は、もともと渋柿しかなかったわけです。タンニンの多い渋柿など食べられた代物ではありませんが、乾燥すると渋味が抜け、甘柿よりも、砂糖よりも甘くなります。これを発見した人はノーベル賞ものだと思います。どうやら、昔、中国の人が、木につけたままの柿が腐る直前、渋味が抜けて甘くなることに気づいたようなのです。これが干し柿に発展していったものと考えられています。要はドライ・フルーツなわけですが、干し柿は、単に保存用に留まらず、加工品に近いものと言えます。

それにしても、中国の乾物文化は見事なものだと思います。もちろん、水分を抜いて保存食にすることが第一義ではありますが、味が変化する、あるいは滋味が増すことを発見したわけです。中華料理の三大珍味と言われるのは、ツバメの巣、フカヒレ、干しアワビであり、いずれも乾物です。これに干しナマコを加えて、四大珍味ということもあります。私は、干しアワビの煮込みの深い味わいが大好きですが、新鮮なアワビの刺身や焼き物は好みません。まるで別物です。興味深いことに、日本には、干したアワビやフカヒレを食べる習慣がなく、昔から中国への輸出品とされてきました。干しアワビ、フカヒレ、干しナマコは、俵物三品と呼ばれ、江戸期の中国貿易の花形でした。

さて、大人気の「杣の木漏れ日」ですが、昔から気になっていることがあります。栗きんとんも、干し柿もとても美味しいのですが、その2つが化学反応を起こし、新たな味が生まれているといった気配はありません。かと言って、喧嘩しているわけでもありません。「杣の木漏れ日」ファンの皆さんは、その贅沢とも言える組み合わせがお気に入りなのであって、組み合わせの妙が生む味わいを楽しんでいるとは思えません。もちろん、私も、嫌いなわけではなく、美味しく頂きますが、できれば、好物の栗きんとん、そして甘い干し柿は、別々にいただたきたいと思うわけです。(写真出典:myrecommend.jp)

マクア渓谷