![]() |
John Ford Point |
いわゆるワイルド・ウェストの時代は、19世紀後半のたかだか20~30年の間のことです。にも関わらず、あらゆる障害を乗り越えながら、西へ、西へと進む開拓者たちの姿は、強国アメリカの精神を象徴しているとされたわけです。私の世代は、TVでローン・レンジャーを見て育ちましたが、映画館で黄金期の西部劇を見ていたわけではありません。それでも、リヴァイバル上映やTVで、さんざん見せられました。「真昼の決闘」(1952)、「シェーン」(1953)、「OK牧場の決斗」(1957)などは超有名でした。しかし、西部劇と言えば、やはりジョン・フォード作品ということになります。ことにジョン・ウェインが主演した「駅馬車」(1939)、「黄色いリボン」(1949)、「捜索者」(1956)等が有名です。
ジョン・フォード映画のロケ地として多く使われたのが、ユタ州とアラバマ州にまたがるモニュメント・ヴァレーです。現在は、ナヴァホ族の居留地となっています。その異様な景色は、西部劇のイメージそのものとも言えます。メサと呼ばれるテーブル状の台地が風化・浸食され、ビュートと呼ばれる頂上が平らな岩山が点在しています。その間を、騎兵隊、駅馬車、ガンマン、そしてインディアンが、馬にまたがって疾走するわけです。まさにジョン・フォードの世界です。かなり広いエリアですが、砂埃をあげなら車を走らせると、映画で見たことがあるような景色が、次から次へと現われます。特に、ジョン・フォードが、よくカメラを設置したというジョン・フォード・ポイントなどは鳥肌ものでした。
要は、印象的な景色以上に、今、自分はジョン・フォード映画のなかにいるんだ、という感動の方が大きかったということだと思います。いわゆる聖地巡礼です。また、モニュメント・ヴァレーの朝焼けと夕焼けは、特に美しいとされます。私も、家族で観光したおり、皆を、夜明け前にたたき起こして、見物に出かけました。幻想的な景色に感動しました。連なるビュート群の向こうに朝日が昇ると、思わず合掌したくなりました。ネイティブ・アメリカンのなかで最大規模を誇るナヴァホ族は、モニュメント・ヴァレーを聖地としてきたとされます。よく理解できます。この景色は、まさに神の御業、あるいは神が住まうところと思ってしまいます。
1960年代に入り、人種問題、公民権運動、ヴェトナム戦争などでアメリカ社会が揺らぎ始めると、伝統的な西部劇の数は減り、従来とは視点の異なる西部劇が現われます。アメリカの西部開拓とは、とりもなおさずネイティブ・アメリカンの虐殺と略奪のことだったという認識が一般化していきました。開拓者の敵インディアン、あるいは「インディアン、嘘つかない」といったハリウッドが作ったネイティブ・アメリカンのイメージは消えていきました。1970年に公開された「小さな巨人」と「ソルジャー・ブルー」では、ともにネイティブ・アメリカンの虐殺が描かれ、西部劇を変えたとされます。古くさい西部劇の象徴だったモニュメント・ヴァレーが、現代的な西部劇に登場することは、まったくありません。(写真出典:mapio.net)