2022年10月25日火曜日

フット・スロー

いつの頃からか、ホテルのベッドの足側に、帯状の厚手の布が掛けてあるようになりました。米系の高級ホテルから始まったように記憶します。それが、瞬く間に広がりを見せ、今ではビジネス・ホテルのようなところでも、見かけるようになりました。見た目、高級感があっていいのですが、正直なところ、ベッドに入るときには、邪魔くさい飾りだと思っていました。そこそこ綺麗な布なので、床にほうるのもいかがなものかと思い、たたんで椅子の上に置きますが、それも面倒な一手間です。最近になって、それがフット・スロー(Foot Throw)、あるいはベッド・スローと呼ばれるものであることを知りました。

フット・スローは、単なる飾りではなく、土足のまま、ベッドのうえに寝転んだ際、掛け布団が汚れないように置かれているのだそうです。靴を脱ぐ習慣のある日本人からすれば、あまり意味はありませんが、欧米人にとっては実用的だということになります。しかし、土足用にしては綺麗に過ぎて、足を乗せにくいような気もします。かつて、良いホテルのベッドには、ベッド・カバーが掛けてあったものです。ベッド・カバーがあれば、土足のまま乗ることも、あまり気になりませんでした。いつの間にか、ホテルでベッド・カバーを見かけなくなりました。ベッド・カバーよりも生地が少なくて済むフット・スローに替えて、コスト・ダウンを図ったのかと思いました。

それも、多少はあるのかも知れませんが、フット・スローが登場したのは、別に立派な理由がありました。ホテルにおけるベッド・メイキングの変革です。かつては、マットレスをシーツで覆い、その上にトップ・シーツのかけ、その上に毛布を乗せ、端をマットレスの下に折り込んでいました。トップ・シーツの首元は折り返しておきます。そして、ベッド・カバーを掛けるというのがスタンダードでした。ところが、近年、デュベ・スタイルというのが主流になったのだそうです。デュベとは、フランス語で羽毛のことです。ホテルでは、重い毛布に比べ、軽くて、寝心地の良い羽毛布団を使うことが多くなりました。毛布の重さで安定していたトップ・シーツは、軽い羽毛布団では塩梅の悪い代物になります。

そこで、トップ・シーツをやめ、羽毛布団にカバーをかけるスタイルが増えたのだそうです。随分、手間がかかりそうですが、カバーには大きな開口部があり、軽い羽毛布団なら扱いやすいわけです。デュベ・カバーの端はマットレスに折り込んでおきます。デュベ・カバーがベッドを覆っていることに加え、羽毛布団の軽さを維持するためにも、重いベッド・カバーを止めたのでしょう。ベッド・カバーに代わりとして、土足用にフット・スローが必要になったというわけです。10年ほど前、飛行機か新幹線の備付誌のコラムで、裏千家の千玄室大宗匠が、フット・スローについて、なんじゃこれは、馬鹿なことをするな、と書いておられました。まったく同感だと思ったものです。大宗匠にも、デュベ・スタイルについて、お知らせしたいところです。

余談になりますが、やはり最近知った話に、玄関ドアの話があります。日本の玄関ドアは、外開きが主流で、欧米では内開きが基本なのだそうです。そもそも、ドア自体は、欧米から入ってきた文化なので、欧米と同様に内開きであって当然のように思います。ところが、屋内では靴を脱ぐという日本の文化からして、玄関には、靴を脱ぐスペースが必要になります。そこで、外開きが主流になっているだそうです。靴を脱ぐ文化にとって、フット・スローは意味がなく、ドアの外開きは必要不可欠ということになります。(写真出典:amazon.co.jp)

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