![]() |
黒田日銀総裁 |
今回の物価高の要因は、複合的です。コロナ感染が落ち着くなか、各国の景気は急回復し、金利引き上げへとつながりました。日本と海外との金利格差が拡大し、円安は異次元のレベルへと突入。エネルギー・食品はじめ多くのものを輸入に頼る日本にとっては、円安効果を差し引いても、大きなダメージを与えるものと思われます。さらにロシアによるウクライナ侵攻は、エネルギー・小麦・食用油・肥料などの輸出大国である両国からの物流に多大な影響を与えています。また、温暖化による世界的な異常気象、新興国の輸入拡大、原発の停止状態などの影響も加わります。それらが相乗的に日本に影響し、あたかも四方八方から津波に襲われているような状態にあると思います。
来年には、物価は落ち着くという楽観的な見方もあります。しかし、もともと構造的な問題が存在し、それらが、今回、露呈した面もあり、それほど楽観視もできないように思います。その最たるものが、エネルギーと食の分野だと思います。食の問題に関して、岸田政権は、若者の就農拡大や農業のDX化を対策として掲げています。それも必要でしょうが、根本的な問題は、その奥にあるように思います。よく自給率が議論され、カロリー・ベースか生産ベースか、あるいは廃棄食品の問題等がよく取り上げられます。ただ、日本の農業は、輸入した肥料や飼料、そしてエネルギーに依存しています。見た目の自給率が上がったとしても、本質的な輸入依存体質は変わりません。
日本の農政は、”No政”と揶揄されるとおり、一貫性に欠け、米作に拘泥しすぎた面があります。農村を大票田として囲い込んだ自民党の責任も大きいと言えます。ただ、日本のように資源に乏しく、耕作に適した平地も少なく、さらに高齢化が進めば、輸入に頼らざる得ないことは明らかです。食料の国内生産、輸出と輸入との安定的なバランスを確保することこそが、基本方針であるべきだと思います。生産に関しては、欧米に比べ、日本は、農家への補助が極端に少ない国となっています。輸入に関しては、安定的な輸入元の確保を目指して、分散化を進めるべきなのでしょう。しかし、根本にあるのは、為替の安定であり、国際市場での購買力の確保だと思います。
低金利の景気下支え効果は認めますが、メーカーが生産を海外に移転し、かつ、そう簡単には戻せないことを考えれば、景気浮揚策として十分だとは思えません。効果の薄い政策が、国民生活を犠牲にして継続されているとも言えます。輸入を前提に成り立つこの国にあって、円安誘導など危険な賭であり、やるとしても短期間であるべきだと思います。精緻な計算のうえに成り立つ日銀の政策なのでしょうが、全体のバランスという観点からすれば、疑問だとしか言いようがありません。日本は、国力を落とし続け、失われた30年は、さらに長引き、沈没へと向かいつつあるように思えます。なお、金融政策、財政政策、成長戦略を、毛利元就の3本の矢に例えたアベノミクスでしたが、成長戦略の核心とした規制緩和は不発と言わざるを得ず、結果、矢は折れてしまったように思えます。(写真出典:tokyo-np.co.jp)