2022年8月6日土曜日

パンケーキ

Eggs’n Things
ホットケーキを、アメリカではパンケークと呼ぶことを知ったのは、NYに赴任した時でした。パンケーキと言えば済むものを、なぜ、わざわざホットケーキに変えたのでしょう。ソーイング・マシンがミシンになるくらいなら許せますが、妙な工夫を加えた和製英語は、日本人の英語力を低くする一因になっているとも思います。ホットケーキの場合、犯人ははっきりしています。1923年、日本橋の三越百貨店が、食堂で「ハットケーキ」として売り始めたことがきっかけだったようです。その後、1931年には、ホーム食品が、ホットケーキの粉「ホームラック(無糖ケーキミックス)」を家庭用に発売 しています。ホットケーキが、日本に定着したのは、1957年、森永製菓が発売した「森永ホットケーキの素」によるところが大きいようです。

パンケーキは、フライパンで焼くことからパンケーキと呼ばれますが、三越は、単に温かいというだけではなく、ブレッドのパンとの混同を避けるために、ハットケーキと命名したのではないかと思います。また、日本では、永らくホットケーキは甘いものとして知られていましたが、これは森永ホットケーキの素が砂糖を入れていたからだそうです。いずれにしても、日本では、独特の”ホットケーキ”文化が発達したわけです。変化が起きたのは、1970年代以降の海外旅行ブームからではないかと思われます。欧米では、パンケークと呼ぶこと、朝食のメニューであることが認識されたわけです。そして、2008年、鎌倉の七里ヶ浜にオープンしたシドニーのBillsが火付け役となり、2010年、ホノルルのEggs’n Thingsが原宿に出店すると”パンケーキ”ブームが起こりました。

Eggs’n Thingsのパンケーキは、大量の生クリームとフルーツで有名になりましたが、実は生地にナッツの粉が入り、独特の風味を生んでいるところが最大の魅力だと思います。以降、極厚のパンケーキも人気を集めるようになりました。そもそも、パンケーキの歴史は古く、古代エジプトでは、既に焼かれていたようです。日本ではアメリカ式が中心ですが、世界各国には、それぞれのパンケーキが存在します。フランスのガレットも、その一つでしょう。アムステルダムには、パンネクックと呼ばれるパンケーキがあります。ダッチ・パンケークとも呼ばれています。ベーキング・パウダーを使っていないこと、油が多いことが特徴です。アムステルダムでパンネクックを食べた時に、私が思い出したのは、台北名物の葱餅でした。似ているどころか、同じ食べ物と言っても過言ではありません。

ドイツ風パンケーキもあります。ジャーマン・パンケークとも呼ばれますが、アメリカでは「ダッチ・ベイビー」として知られます。ダッチ・ベイビーは、ダッチ・パンケークとは大いに異なり、ポップオーバー系です。ダッチとは”オランダの”という意味ですが、アメリカでは、昔、ドイツもダッチと呼んでいたようです。恐らくドイッチュからの発想なのでしょう。ダッチ・ベイビーの発祥は、1900年頃、シアトルのManca's Cafeだとされます。ダッチ・ベイビーという不思議な名称は、店の主人の娘が付けたということです。少女が、何を思って、そう命名したのかは分かりませんが、一般名詞として定着したわけです。ダッチ・ベイビーもポップオーバーも、イギリスのヨークシャー・プディングが起源だとされています。ヨークシャー・プディングは、ローストビーフの付け合わせとして有名ですが、18世紀には、既に食べられていたようです。

ホノルルのイリカイ・ホテルは、いつの頃か、建て替えて、モダンな高層ホテルになりました。かつては、低層の趣きのある古いホテルでした。泊まったことはありませんが、朝食を食べるために、何度行きました。隣のヒルトン・ラグーンを借景したような庭で食べる朝食は気持ちが良く、何よりも丸っぽく膨らませたポップオーバーが絶妙でした。以来、私は、ポップオーバー・ファンになりました。粉砂糖をかけた見た目は、ハワイ名物でもあるポルトガル風ドーナッツ”マラサダ”のようでもありました。新しくなったイリカイの朝食に、ポップオーバーはありません。残念。あのポップオーバーが、また食べたいと、いつも思っています。(写真出典:dtimes.jp)

マクア渓谷