2022年8月10日水曜日

梁盤秘抄#26 "X" Chronicle

 アルバム名:"X" Chronicle of SOIL&"PIMP"SESSIONS(2013)                               アーティスト: SOIL&"PIMP"SESSIONS

SOIL&"PIMP"SESSIONS(以下SOIL)を最初に知ったのはYoutubeでした。まったくの偶然ですが、”SUMMER GODDESS”(2005)と”Crush!”(2006)を聞いて、ガツンとやられました。ノリのいいリズム、ガンガン吹きまくるホーン、ポップなメロディが、とても気持ちよく、耳に残りました。懐かしくも、新しくもあり、もともとJazzが持っている楽しさの部分が全面に出ている印象でした。海外での活動が多く、東京でのライブは少なかったのですが、何度か行きました。SOILは、自らの音楽を”Death Jazz”と称していますが、クラブのライブでも、コンサート・ホールでのライブでも、観客は踊りまくり状態となり、とてもJazzのライブの景色ではありませんでした。

SOILは、2003年、セッションで知り合ったメンバーによって結成されています。メジャー・デビュー前にフジ・ロックに出演し、注目を集めます。SOILの快進撃は、2005年、イギリスから始まります。アシッド・ジャズの大物DJ・ジャイルス・ピーターソンに見いだされ、ブレイクします。イギリス伝統の大型野外フェス「グラストンベリー・フェスティバル」にも出演します。日本人としては、コーネリアス、スカパラに続く3組目でした。SOILの主戦場は、欧州を中心とした海外になったわけですが、国内では、椎名林檎とのコラボなども行っています。逆輸入のようになったSOILの人気は高まり、ジャズ界の風雲児とも呼ばれます。CDは良く売れ、数少ない国内でのライブのチケットは入手困難となります。

大人気のなか疾走を続けたSOILでしたが、2016年、サックスの元晴が脱退します。SOILサウンドの核心でもあった元晴の脱退とともに、バンドは一時活動中止に入ります。ここまでが、いわばSOILの第1期と言ってもいいのでしょう。 "X" Chronicleは、2013年にリリースされたベスト・アルバムですが、SOIL第1期の集大成と言えます。トランペットのダブゾンビとサックスの元晴が吹きまくり、丈青のリリカルな面も持つピアノが小気味よく、疾走感を生むみどりんのドラムと秋田ゴールドマンのベースが挑発的で、社長のアジテーションもキレがあります。しかし、いかに客が求めるからといって、全力で”SUMMER GODDESS”や”crush!”ばかり演奏していたら、さすがに疲れるだろうな、とは思います。

2017年には、丈青の指が悲鳴を挙げたこともあり、SOILの本格的な活動再開は、2018年になりました。サックスには、客演という形で栗原健が参加します。図太い音のテナー・サックスは面白いのですが、元晴のような疾走感はなく、当初は、かなり違和感がありました。同時に、SOILサウンドは、落ち着いたものへと変化していきます。SOILらしさも残しながら、アメリカのブラック・ミュージックの新しい流れも感じさせ、あるいはオーセンティックなジャズのカバーもしたりと、より都会的な音楽へと進化します。象徴的なのは、ダブゾンビのトランペットです。シンプルなブロー系から、より幅広い音楽性を感じさせるようになりました。それはそれで面白いのですが、オールド・ファンとしては、やはり爆音と疾走感を求めてしまいます。

SOILが、青山のブルーノートに初登場したのは、2015年頃と記憶します。印象に残るライブでした。いつものクラブでのライブよりは、疾走感に欠け、やや上品に聞こえました。ライブの最後に、メンバー全員が、一言づつ、ブルーノート初演の感想を語っていました。そんなことは、SOILに限らず、普通、誰も行いません。あこがれのビッグ・ネームたちの演奏を、観客として聞きに来ていたステージに、自分たちも立てたことに、いたく感動したと言っていました。彼らの話を聞いて、こっちまでホロッときました。いつもとは、やや異なる印象の演奏は、彼らの緊張ゆえだったわけです。ジャズマンたちにとって、ブルーノートはあこがれの聖地であることを、あらためて知らされた一夜にもなりました。(写真出典:tower.jp)

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