監督: 樋口真嗣 企画・脚本:庵野秀明 2022年日本
☆☆+
(ネタバレ注意)
TVシリーズの「ウルトラマン」は、1966年7月から放送されました。それに先立つ半年間放送された「ウルトラQ」の大人気を受けて、制作されたものです。ゴジラに始まる日本の怪獣は大人気でしたが、基本的には映画館でしか見ることがきませんでした。ウルトラQは、それを、TVで、かつ毎週見ることができるようにしたという画期的な番組でした。後続のウルトラマンは、子供たちに大人気となり、最高視聴率が40%を超えるという空前絶後の大ヒットTV番組になります。さらに、シリーズ化されたウルトラマンは、中断した時期はあるものの、現在に至るまで継続され、また、海外でも多く放送されてきました。怪獣映画で育った私にとっては、安易で、チープなTV怪獣など、馬鹿馬鹿しくて見る気にもなりませんでした。既に小学校6年生になっていたこともあり、TVでウルトラマンを見た記憶もなく、何の思い入れもありません。ただ、庵野秀明の脚本、総監修だというので見たまでです。私より下の各世代は、ノスタルジーをかき立てられるはずです。その期待を裏切るわけにもいかないということが、本作の制約になっているのでしょう。まったく新たなに庵野流解釈によるウルトラマンではなく、そのチープな手触り感や世界観をしっかり継承しています。そのうえで、ウルトラマンのジレンマ、過度に劇的な展開の回避、物理学的世界観など、庵野流の味付けが加えられています。
大画面で見るウルトラマンは、ファンにとってうれしいものだと思います。庵野秀明ファンからすれば、好きにやらせろよ、と言うことになるのでしょう。一つ印象に残ったシーンがあります。映画が始まり、比較的退屈な展開が続く中、私は、長澤まさみが巨大化したら面白いのにな、と思っていました。それが、実際、出現したのです。ウルトラマンでも、怪獣でもなく、スーツ姿の長澤まさみが、そのまま巨大化して丸の内を歩くのです。思わず吹き出しそうになりました。制約の多さへの意趣返しなのか、ウルトラマン論なのか、いずれにしても庵野秀明の自己主張が感じられて、笑えました。庵野は、このシーンを中心にシナリオを書いたのではないか、とさえ思います。
円谷プロの創業者である円谷英二は、戦意高揚映画を作っていたとして公職追放にあっています。古巣東宝に戻ると、1954年、歴史的な大ヒット作「ゴジラ」の特撮を担当します。特撮の神様の誕生です。ウルトラマン等のヒット作もありつつも、円谷プロの経営は、決して順調ではありませんでした。着ぐるみスタイルの怪獣、精巧を極めたミニチュア・ワークなど、製作費がかさむ構造を持ち、一方で、特撮のニーズには波がありました。かつて、東宝やTBSと関係の深かった円谷プロは、現在、パチンコ・メーカーのフィールズの傘下にあり、バンダイナムコの出資も受けているようです。
世はCGの時代となりました。着ぐるみ、ミニチュアは、過去のものと言ってもいいのでしょう。久々に、その世界を見たわけですが、単なるノスタルジー以上に、味わい深いものがありました。シン・ウルトラマンは、さすがにCGも組み合わせています。近年は、CGを多用する映画が多く、マーベル映画などは、実写なのかアニメなのか、区別しにくいものまであります。このままCGの進化が止まらないとすれば、映像コンテンツの世界も大きく変わります。着ぐるみ・ミニチュアどころか、俳優も、必ずしも必要というわけではなくなります。ウルトラマン・サイズの長澤まさみが丸の内を歩くシーンなどは、歴史的映像として知られる日がくるかも知れません。(写真出典:animeanime.jp)