2022年6月13日月曜日

女王トミュリス

ヌルスルタン
スターン6カ国という言い方があります。カザフスタン、ウズベキスタン、パキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、アフガニスタンのことです。スターン、ないしはスタンは、ペルシャ語で「~が多い土地」という意味だそうです。カザフ族が多い土地なので、カザフスタンというわけです。実は、キルギスも、かつてはキルギスタンが正式国名でした。また、ロシア連邦内には、バシコルトスタン共和国やタタールスタン共和国があります。他の地域呼称としては、例えば、インドにはラジャスターン州があり、インド全体はヒンドゥスタンと言われ、クルド人居住地域はクルディスタンとも呼ばれます。

スターン6カ国中、パキスタンとアフガニスタン以外の4カ国は、ソヴィエト崩壊とともに独立した国々であり、国名は知っていても、比較的馴染みの薄い国が多いと言えます。カザフスタンも同様、知っていることは限られます。カザフスタンは、アジアの中で、中国、インドに次ぐ大国であり、世界第9位の国土面積を持ちます。その大半が、定住には適さない乾燥したステップであり、人口は約18百万人、世界第63位となっています。石油とガスで潤う国でもあります。紀元前6世紀頃から、黒海北部、現在のウクライナ周辺に強大な国家を形成したスキタイ人は、もともとカザフ・ステップの遊牧民であり、同じ遊牧民族であったマッサゲタイに追われて、黒海へ進出したとされます。マッサゲタイは、紀元前6~1世紀に存在した遊牧民集団と言われます。

マッサゲタイに関する文献としては、紀元前5世紀に書かれたヘロドトスの「歴史」が、最も詳しいようです。なかでも、女王トミュリスに関する記述は有名であり、後世、多くの芸術家がテーマとして取り上げてもいます。マッサゲタイを征服せんとするペルシャのキュロス2世は、策略を用いて、トミュリスの息子を捕獲します。それを恥じた息子は隙を見て自害します。怒ったトミュリスは、全部族を率いて、大ペルシャに挑みます。結果、ペルシャは負け、キュロス2世も討ち取られます。トミュリスは、キュロス2世の首を切り落とし「私は生き永らえ戦いはそなたに勝ったが、所詮はわが子を謀略にかけて捕らえたそなたの勝ちであった。さあ約束通りそなたを血に飽かせてやろう」と語ったとされます。

2019年にカザフスタンで製作された国策映画「女王トミュリス 史上最強の戦士」を、Amazon Primeで観ました。随分とお金をかけた戦闘シーンは迫力がありましたが、映画としては退屈なものでした。衣装や言葉が歴史を無視しているとの批判も多かったようです。カザフスタンの独裁者として知られたヌルスルタン・ナザルバエフは、2019年、民主化デモによって退陣しましたが、その娘が大統領選に出馬すべく準備中であり、この映画は、そのための地ならしだと見られているようです。ナザルバエフは、特権を使って富の蓄積をし、娘もカザフスタンではトップ・クラスの実業家だそうです。特権の味を知った独裁者は、世襲に持ち込もうとします。世界最後の秘境と言えば、北朝鮮ですが、時代錯誤的な世襲独裁など、北朝鮮だけにしてもらいたいものです。

カザフスタンの首都は、アスタナと呼ばれてきました。2019年、独裁者ヌルスルタン・ナザルバエフの退任に際して、街はヌルスルタンに改称されています。ヌルスルタン・ナザルバエフの功績を称えて改称したとのことです。いささか呆れた話です。トミュリスに見立てた娘も、間違いなく独裁者になるのでしょう。ないしは、娘を使って、ナザルバエフが独裁を続ける可能性も高いと思います。民衆がだまっているのでしょうか。2024年に予定される大統領選は、血なまぐさいものになりそうです。(写真出典:gqjapan.jp)

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