2022年4月19日火曜日

スープカレー

アジャンタのカレー
スープカレーに初めて出会ったのは、札幌の「アジャンタ」でした。1980年代半ばのことで、当時のアジャンタは、南22条にあったと記憶します。シャバシャバ系のカレーといえば、1964年創業、新宿紀伊國屋のB1にあった「モンスナック」が有名でした。私も大ファンです。今は、西口へ移転して営業中です。ただ、アジャンタのカレーは、まるで違いました。スパイシーなスープ、まるごとのチキン・レッグ、大きな野菜たちと、ぶっ飛んでいました。やみつきになって、随分と通いました。アジャンタは、1971年に喫茶店としてオープンし、名物カレーをメニューにしたのは1975年と聞きます。インドに通っていそうなピッピー風のご夫妻が経営していました。

当時は、まだスープカレーという言葉はありませんでした。単に”アジャンタのカレー”と呼ばれていました。スープカレーが、新たな札幌名物となったのは、2000年代に入ってからです。スープカレーという絶妙なネーミングがあってこそ、はじめて大ブームが起きたのだと思います。スープカレーというネーミングは、1993年に札幌の白石にオープンした「マジックスパイス」が発祥だとされます。マジックスパイスは、元祖カレースープを謳っています。ネーミングはその通りとしても、やはりアジャンタこそがスープカレーの元祖だと思います。いずれにしても、ジャンル名を付けるが、マーケティング上、いかに大切かという好事例だと思います。

もう一つ、スープカレーがヒットした要因があります。当たり前のことですが、小麦粉でとろみをつけた日本式のカレーライスが、全国隅々まで定着していたことです。スープカレーは、いわば旧体制に対する革命児としての存在を示し、新ジャンルを明確にすることができたわけです。ご飯の上に乗せるのではなく、スプーンですくったご飯をスープに浸して食べるというアジャンタ流の食べ方も、まさに革命児としてのインパクトがあり、新ジャンルを印象づけたと思います。具材のインパクトもありましたが、アジャンタのカレーは、なんといってもスープの美味しさとスパイスの使い方に特徴がありました。スープに目が行きがちですが、当時、まだ出始めだったインド式カリーに通じるスパイスの使い方が新しかったとも言えます。

アジャンタのスープは、チキンとたっぷりの野菜からとっていたと思われます。スープカレーは、なにせスープが命です。そういう意味では、美味しいスープさえあれば、スープカレーは簡単に作れるとも言えます。私は、よく鍋物の残りで作ります。おでんや豚しゃぶ、あるいはポトフの残りに、カレー粉やガラムマサラを入れ、各種スパイスで調整すれば、美味しいスープカレーになります。複数の野菜、肉、魚からとったスープは、グルタミン酸とイノシン酸が混じってコクを生み、だいたい美味しくなるものです。それでもコクが足りない場合には、少しだけウスター・ソース、とんかつソース、焼肉のタレ、あるいはシャウエッセン等のソーセージを加えます。さらに炒めたピーマンでも入れたら、立派なスープカレーになります。

昔、虎ノ門にあって、今は赤羽橋に越した蕎麦屋「志な乃」は、大好きな店の一つです。太めで短いタイプの十割そばは、今となっては貴重な存在です。志な乃ファンの多くが注文するのが”けんちん合い盛り”です。コシの強いうどんも絶品です。そして名物のけんちん汁は、他にない深い味わいを出しています。もちろん具材は根菜中心の野菜だけです。私は、昔から、志な乃のけんちん汁には、ほんの少しのカレー粉、あるいはクミンが入っているのではないかと思っています。あるいは、根菜の出すうま味とごま油が、奇跡的にうっすらとしたカレー風味を生んでいるのかも知れません。昔から、美味しいスープとカレー風味は相性が良いということです。(写真出典:tabelog.com)

マクア渓谷