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鶯餅と道明寺 |
鶯餅の発祥は、安土桃山時代にさかのぼります。大和郡山城主であったた豊臣秀長が、兄である秀吉を招いて茶会を開きます。その際に出す茶菓子として、今まで見たこともない菓子を作れと命じます。秀吉を喜ばせるためには、それくらいしなければならなかったのでしょう。菓子作りを命じられたのは、城門前の菓子屋、菊屋治兵衛でした。秀吉は、治兵衛が作った菓子をいたく気に入り、「以来この餅を鶯餅と名付けよ」と名前を授けました。秀吉の命名した菓子と言われると、なにやら有りがたくなります。ちなみに、菊屋は、今も同じ場所で、同じ鶯餅を商っています。ただし、商品名は「お城の口餅」であり、餅にまぶしてあるのは、うぐいす粉ではなく、普通の黄色いきな粉です。残念ながら日持ちしないので、東京での知名度はイマイチです。
元祖の”お城の口餅”は別として、ごく一般的な鶯餅は、あんこを求肥で包み、うぐいす粉をふりかけたものです。これは、どうも地域による違いはなく、全国どこでも同じようです。両側を引っ張り、多少横長にしたものと丸いものがあります。横長にするのは、鶯の姿に似せているのだそうです。きなこの語源は”黄なる粉”ですが、大豆を炒って皮をむき粉にしたものです。うぐいす粉は、青大豆から作られます。大豆を若いうちに収穫したものと誤解される傾向がありますが、実は普通の大豆とは異なる品種です。油分が少なく、甘みが強いとされます。うぐいす粉は、他の菓子でも使われてもいいようなものですが、鶯餅以外で見たことはありません。それもそのはず、栽培が難しく、東北の一部でしか採れない希少な食材なのだそうです。
桜餅と言えば、なんといっても「長命寺の桜餅」ということになります。向島の長命寺門前の山本やの桜餅です。1717年、長命寺の門番をしていた山本新六が、門前に開いた山本やで売り始めたのが、桜餅の元祖だそうです。桜の葉の塩漬け3枚で包んだ長命寺は、味も風味も、やはり桜餅の王様だと思います。桜の葉は、塩漬けにすることで、独特の香りと風味が生まれると言います。長命寺はあんこを小麦粉の餅でくるみ、桜の葉で巻きます。一方、道明寺と呼ばれる関西風の桜餅は、餅米を蒸して荒くひいた道明寺粉であんこをくるみ、その上に桜の葉を乗せます。道明寺粉は、藤井寺にある尼寺道明寺で、古くから作られていた糒(ほしい)を荒くひいたものとされます。どうやら関西風の道明寺の方が、全国的には多いようです。長命寺は、関東と一部東北だけにあるものだそうです。桜餅は、関東風であれ、関西風であれ、いずれもお寺さんが関係してくるところが面白いと思います。
今でも、春になると長命寺を食べるのですが、その際、必ず話題になるのが、桜の葉をとって食べるか、そのまま一緒に食べるか、という議論です。長命寺の桜餅は、葉をはずして食べろと言っています。桜の葉で巻くのは、香り付けと乾燥を防ぐためであって、食べる際には、菓子本来の風味を味わうためにはずせということだそうです。私は、一枚だけ桜の葉を残して食べます。その方が香りもよく、塩味がいい塩梅になるからです。ただ、桜の葉の香りには、肝臓を痛める成分が入っており、食べ過ぎには注意が必要だと聞きます。なんと食品添加物としても認められていないようです。(写真出典:tabelog.com)