バッチャンの陶器は、ホン川の恵みとも言われます。川が運ぶ良質の粘土が、蛇行点で堆積され、バッチャンの陶器になるからです。恐らく、ホン川の酸化鉄も釉薬づくりに適していたのでしょう。また、輸送にも最適な場所であり、ホン川を通じて国内外に運ばれたわけです。ヴェトナム文化は、日本と同じく、中国の影響を大きく受けています。支配されていた時期もあることから、ヴェトナムの方が中国色が濃いように思えます。陶磁器も同様です。ヴェトナムの焼き物は、古くから存在していましたが、本格化したのは、元朝の影響を受けた磁器や景徳鎮に刺激された染付が作られるようになった頃と言われます。
安土桃山時代には、日本にも輸出され、「安南焼」と呼ばれていたようです。ただ、この時期、ヴェトナムの陶磁器は衰退期に入っており、質の悪い製品が多かったようです。日本の茶人たちは、その雑さを趣と捉え、好んだようです。粗悪な量産品と見るか、素朴な味わいと見るか、難しいところです。詰まるところ、受け手の問題ではありますが、民芸運動を巡る議論を思い起こします。柳宗悦は、民芸に「用の美」を見いだし、美術として光をあてます。ただ、それが芸術かどうかについては議論も多く、北大路魯山人等は、厳しく批判しています。バッチャンの陶器は、どこか日本の民芸に通じる味わいがあります。
バッチャンは、古くから、生活陶器、装飾工芸品、建築用陶器等、幅広く製作してきたようです。ただ、最もバッチャンらしいのは、素朴な生活陶器だと思います。大人気のベトナム雑貨にも通じる味わいです。すべて手作りという風合の良さ、有名なトンボはじめ、身近で違和感のない絵柄、日本人には、馴染みやすいどころか、懐かしさすら感じさせます。日本のどこかの窯で焼いたと言っても通るくらいです。同じく中国文化の影響を受けている、と言えば、それまでですが、それ以上に、ヴェトナムと日本の感性の類似性によるところが大きいのではないでしょうか。細長く海に面した国土、米食文化、水田風景、野菜好き、うま味に使う魚醤等々、多くの類似点があります。生活陶器が似通っていても、何の不思議もありません。
初めてヴェトナムへ行った時、バッチャン焼の水煙草用の喫煙具を買いました。小ぶりな急須に金属の長い煙管を付けたような代物です。もちろん使うために購入したのではなく、置物として面白いと思ったわけです。やや古びた感じだったので、これはアンティークなのか、と聞いてみました。これは、アンティーク風に仕上げただけで、本当のアンティークなら、値段は100倍を超えると言われました。古バッチャン、それも初期のものは、高価で取引されているようです。ただ、見た目には、現代のものと、さほど大きな違いはありません。バッチャン焼は、昔とあまり変わっていないということなのでしょう。(写真出典:333store.jp)