2022年1月19日水曜日

女性落語家

桂二葉
昨年11月、毎年恒例のNHK新人落語大賞で、上方の噺家、桂二葉が、全員満点という驚異的な審査結果をもって優勝しました。50年の歴史のなかで、はじめての女性の優勝者です。落語には不向きといわれる甲高い声、かつ女性というハンディキャップを克服しての大賞です。これは大きな潮目になるのかもしれません。桂二葉は、桂米二の弟子であり、米朝の孫弟子ということになります。上方落語には真打制度がないので、東京では二つ目の扱いとなるようです。ところが、勢いのある独自の芸風は、下手な真打をはるかに超えています。一門の先輩である枝雀の匂いも感じさせる高座には、大笑いしました。

落語家は、現在、1,000人ほどいるようですが、女性は50人ほどと聞きます。日本初の女性落語家は、上方落語の露の都師匠です。1974年、何度か断られたうえで露の五郎の弟子になりました。師匠たちは、一様に、女性の入門希望者に戸惑ったものだそうです。江戸時代から、男性を前提に歴史を積み上げてきた世界です。戸惑いは当然です。もちろん、入門した方の覚悟と苦労は、並大抵のことではなかっただろうと思います。噺家の世界は、弟子が師匠のものまねをすればいいという世界ではありません。芸を盗んで、我が物にして、はじめて一人前です。そういう意味では、男も女も関係ない世界ではありますが。

とは言え、初期の女性落語家の傾向として、師匠のものまね、あるいは、それがしんどくなると、語り口を講談に寄せていくような傾向もあり、聞いていて、心地よいものではありませんでした。あえて言えば、自分を男性社会に合わせようとしていたのではないでしょうか。そうした先輩たちのあがきやもがきのうえに、次の世代が生まれてきます。印象的には、女性らしさを殺さない芸風になっていったように思います。恐らく、落語界が女性の若手に慣れてきたという環境変化もあったからなのでしょう。2007年には、NHKの朝ドラで「ちりとてちん」が放送されます。若い女性が落語家を目指す話です。私は見たことがないのですが、こだわりの詰まったドラマだったようです。

視聴率は振るわなかったようですが、落語界の変化を踏まえた作品でもあったのでしょう。この時期、気になったことがあります。一部の女性落語家の語り口が、アニメの声優っぽいところがありました。アニメで育った世代なので、自然なのかも知れませんが、嫌な印象を持ちました。男のまねをすることからは卒業したものの、何かにすがろうとする姿勢が透けて見えました。女性落語家の時代は、まだ先かな、と思ったものです。ところが、NHK新人落語大賞で、桂二葉を聞いたときには驚きました。女性としての特性ではなく、桂二葉としての個性をしっかり踏まえ、芸と真っ正面から向き合っているように思えたからです。こうなれば、もう男も女も関係ありません。本当に実力で勝負する時代が始まったのでしょう。

前回のNHK新人落語大賞にも出場した桂二葉は、審査員の柳家権太楼から、ボロカスに酷評されています。ところが、今回、その権太楼が、涙ぐみながら「おめでとう。1年の精進が見える。努力すれば必ず結果を生む。期待してます」と評し、満点を付けました。芸道に身を置くものとして、二葉の精進を理解し、成長ぶりを素直に喜んだのでしょう。受賞後の記者会見で、桂二葉は「「ジジイども、みたか!ざまあみろ!」と叫んだそうです。もちろん、シャレですが、吹き出してしまいました。日本の女性差別に敏感なNYタイムス紙も、二葉の快挙を記事にしています。二葉はん、がんばりぃや、ホンマの勝負は、これからやで。(写真出典:kamigatarakugo.jp)

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