兵士を集める方法は、古代から、おおよそ徴兵制、志願制、傭兵の3つでした。徴兵制は、何らかの強制力を持つ募集という意味ですが、国民皆兵から強制徴募まで様々な方法があります。18世紀頃までの徴兵制は、無理矢理、兵にさせられるので、モラールの低い兵団になっていたようです。例えば、古代ローマの兵役は、市民の義務とされていました。初期には、強力な軍団でしたが、ローマの戦線が拡大、戦争が常態化すると、市民経済への影響が大きくなり、士気も低下しました。マリウスの軍制改革によって志願制が導入されると、職業軍人化が進み、軍団の戦力も増していきます。なお、占領地の住民などを強制的に徴兵する強制徴募は、現在、国際法で禁止されています。
近代的な徴兵制は、フランス革命から始まります。国民国家の誕生とともに、個人の権利が認められる一方で、国を守る義務は国民にあるという構図が出来上がり、国民皆兵制が採用されます。産業革命とともに武器の殺傷能力が向上したことから、死傷率の高まった兵員の大量補充が必要な時代を迎えていました。当然、戦略・戦術も大いに変化します。新しい時代の戦い方を、いち早く我が物とし、連戦連勝を重ねたのが、ナポレオン・ボナパルトでした。国民皆兵といっても、実際に訓練を受け、戦場に投入される兵は、抽選によって選抜されました。アメリカでは”Draft”と呼ばれます。多くの近代国家が、この方式を採用しました。戦前の日本も同じ方式の徴兵制を採っていました。
しかし、近年、徴兵制を採用している国は、大幅に減りました。北朝鮮、韓国、イスラエル、スイス等は理解できますが、中国、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン等でも継続されています。徴兵制が、大幅に減った理由は、平和な世の中になったからでも、反戦思想が行き渡ったからでもありません。武器のハイテク化が進み、兵員の数そのものの必要数が減っているからだと聞きます。軍事予算は、兵員数からハイテク兵器の確保へと振り向けられているわけです。徴兵制は、あくまでも軍事的必要性に基づいて、採否が決められます。何らかの形で、兵員数が必要となれば、いつでも徴兵制は復活すると理解すべきでしょう。
日本で徴兵制が復活する可能性はあるのか、という話があります。平和憲法があるので、あり得ない、という声が多いと思われます。ただ、可能性だけで言えば、あり得ます。法律論争は別として、現実論的には、自衛隊が存在していますし、日本が侵略を受けた場合、徴兵せざるを得ない事態も考えられます。国民自らが国を守るということは、民主主義の基本です。戦争そのものにも、侵略戦争にも反対ですが、現実に日本が武力侵略を受けた場合、武器をとって自衛すべきであることは明白です。戦後80年に及ぶ日本の平和は、平和憲法によってもたらされたものではありません。いわゆるパクス・アメリカーナゆえの平和だったわけです。それが崩れた今、徴兵制は、より現実的な話として考えるべきだと思います。(写真出典:toyokeizai.net)