数の子が、初めて文献に登場するのは、室町時代、将軍への献上品としてだそうです。つまり、昔から常用食ではなく、縁起物だったということなのでしょう。数の子という名称は、卵の数が半端ないので、数が多い子ということから来ていると思われます。ただ、東北地方で、ニシンをカドと呼んでいたことから”カドの子”から変じたという説もあります。江戸期には、正月の縁起物として定着したようです。当時は、決して高価なものではななかったようです。しかし、昭和も40~50年代なると、数の子は高騰し、”黄色いダイヤ”とまで呼ばれることになります。
ニシンの漁獲量が減る一方で、高度成長とともに豊かさを増した各家庭では、正月料理の定番として、数の子は欠かせないものになっていきます。加えて、核家族化が進んだこともあり、需要は大いに伸びます。塩漬けにすると長期保存が可能な数の子は、投機の対象になっていきました。いわゆる買い占めが横行し、抱えすぎた商社が倒産する事態まで発生します。”黄色いダイヤ”という言葉が生まれ、数の子は高価なものという意識が広がり、定着していきます。近年は、輸入先も拡大され、価格は、かつてほど高くはなく、しかも安定しているようです。早い時期に、塩漬けを買っておけば、比較的安価に済みます。正月近くになったら、塩抜きし出汁に漬ければいいわけです。さほどの量が必要なければ、やや高めですが、正月前に味付けしたものを買えばいいわけです。
数の子を使った料理の定番に、松前漬けとつがる漬けがあります。つがる漬けは、商品名であり、他にねぶた漬け等もあります。細切りにしたスルメと昆布に数の子を入れて、醤油漬けにしたものです。ネバネバしているところが特徴です。松前漬けは海鮮のみで漬けられますが、つがる漬けには、山の幸として、大根やにんじんが入ります。いずれも正月料理などではなく、年中食べられます。松前漬けは、江戸期、松前藩で生まれたとされますが、現在の醤油漬けは、昭和に入ってからの商品です。それが各地へも広がり、つがる漬になったのだと思われます。つがる漬けの場合、数の子が、姿のまま入っていれば高級品、バラで入っているものは普及品となります。
数の子の一種に子持ち昆布があります。味は数の子そのものですが、昆布が真ん中にあるという見た目に加え、産卵後ゆえ、数の子ほど堅くないところが特徴です。筋子とイクラの違いと言えば、言い過ぎかも知れませんが、私は、その多少緩い食感も好きです。昆布に、ニシンが卵を産み付けたものですが、さすがに天然物は、極めてレアだそうです。我々が口にする子持ち昆布は、生け簀にニシンを放ち、そこに昆布をぶら下げて産卵させるようです。(写真出典:gurusuguri.com)