2021年10月8日金曜日

渋滞

Jakarta Traffic Jam
グリッドロック という言葉を初めて聞いたのは、10年ほど前のジャカルタでした。通常、グリッドロックとは、交差点に進入した車が、渋滞のために交差点内で停止することによって、交差するいずれの道でも車の流れが止まる現象を言うようです。交差点付近が混雑している場合、先行車が交差点を出て、かつスペースが生まれない限り、交差点に進入してはいけないというのが交通ルールです。ルールが守られている限り、グリッドロックは発生しません。ジャカルタで聞いたグリッドロックは、多少異なりました。ジャカルタでは、街中の自動車を縦に並べた長さが、道路の総延長距離と等しくなっているというのです。それをグリッドロックと呼んでいました。むしろデッドロックじゃないか、とも思いました。

ジャカルタの渋滞は、バンコック、メキシコ・シティと並んで、世界三大渋滞とも言われるようです。確かに異常なレベルでした。一人あたりのGDP(国内総生産)が3,000ドルを超えると、モータリゼーションが起こると言われます。インドネシアも同様でした。要は、急速なモータリゼーションに、ジャカルタのインフラがついていけなかったわけです。先進国は、皆、経験してきたことです。かつて東京も同じでした。東京は、1964年の東京オリンピックを機に、首都高速道路を中心とした交通インフラの整備を、一気に進めました。ジャカルタも、オリンピック等、国際的大イベントを誘致したらどうですか、と現地の人たちに言ってみました。そこまでの資金はない、というのが皆さんの回答でした。しかし、東京も潤沢な資金があったわけではなく、国際借款でオリンピック準備を行っています。

高速道路で渋滞に巻き込まれると、いつも思うのが、渋滞の先頭はどうなっているのか、ということです。工事や事故による渋滞は別として、自然渋滞が発生する主な要因は、高速道路では坂道、一般道では信号だと言われます。坂道では、ドライバーが意識せずともスピードが落ち、それが連鎖して、結果渋滞が発生するというメカニズムです。また、高速道路の渋滞が、追越車線から始まるという傾向も、よく知られています。これは、交通量が多い時、頻繁に車線変更する車が現れると、後続車がブレーキを踏むことが多くなり、結果、渋滞を引き起こすのだそうです。確かに、私も、混雑時、急いでるわけでもないのに、ついつい車線変更を繰り返すことがあります。

かつて、ひどい渋滞の時には、どうせチョボチョボとしか進まないのだから、アクセルとブレーキ、そしてハンドルから解放されたいと思いました。昨今、自動運転が、限定的ながら導入され、それが実現しつつあります。そもそも自動運転が進むと、渋滞も無くなるのではないかと思っています。とりあえず高速道路に限っての話ですが、車の自動運転システムと、高速道路全体を管理するシステムがリンクすれば、渋滞も事故も発生しないものと思われます。ゆくゆくは、全ての道路を、そのシステムがカバーすることもあり得ます。ただ、そうなると、車を運転する楽しみはなくなり、実につまらないものになります。列車に車を積んで輸送しているのと大差ありません。それは、もう自動車ですらなく、自動車の時代は終わりを告げるということなのでしょう。

15年ほど前に、デンソーのショー・ルームを案内してもらったことがあります。その高い技術力に驚かされました。中でも印象に残ったのは、交差点で、建物の影になって見えていない歩行者や車を可視化する技術でした。ここまで技術が進めば、もう空飛ぶ車を開発した方が早いんじゃないですか、と冗談のつもりで話したら、デンソーの方は、笑うこともなく、何の返しもありませんでした。車に関する技術的進化が、自動車産業の首を絞めることになるというアイロニーを分かっているんだろうな、と思いました。(写真出典:jakartaexpart.id)

マクア渓谷