シンガポール名物なのに、なぜ”海南”なのか、気になるところですが、中国の海南島出身の人たちが、故郷の味を懐かしんで作った料理ということのようです。海南島の名物料理”文昌鶏”が起源とも言われますが、まったく異なる料理です。つまり、海南チキンライスと言いながら、海南島には存在しない移民料理なのです。また、タイの”カオマンガイ”はじめ、インドネシア、マレーシアなど東南アジア一帯には、似たような料理が存在します。ただ、”海南”という地名が付いているのは、シンガポールだけです。恐らく、海南島出身者がシンガポールで作り、各地へ伝播していった料理なのでしょう。
海南チキンライスは、茹でた鶏肉、そのスープで炊いたタイ米、という組み合わせですが、手順、香辛料の使い方等で、微妙に異なる、様々なレシピがあるようです。もちろん、店によっても秘伝のレシピがあるのでしょう。値段の違いは、使う鶏肉の質と米の種類にあります。米は、タイ米を使うのですが、いい店では、高級なジャスミン米、カオホンマリを使います。香ばしさが違います。また、海南チキンライスに添えられるソースは3種類と決まっています。主に鶏飯にかけるダーク・ソイソース、鶏肉用のチリ・ソース、ジンジャー・ソースです。これも店によって味は異なりますが、店の評価に直結する大事な要素です。ちなみにカオマンガイは、味噌系のタレが主流です。
食べログに登録されているタイ料理店は、東京だけで650店を超えるそうです。タイ料理は人気で、カオマンガイ専門店も少なからずあります。一方、海南チキンライス専門店も増えました。海南鶏飯食堂、シンガポール海南鶏飯などは、複数の店舗を展開しています。なかでも、田町の「威南記(ウィーナンキー)海南鶏飯」は、シンガポールを代表する名店の東京支店です。シンガポール政府が国賓をもてなす際には、ウィーナンキーの海南チキンライスが饗されるとも聞きます。たまに海南チキンライスが食べたくなるのですが、ありがたいことに、シンガポールまで行かなくても、田町で上質なものが食べられます。ちなみに、この店舗、以前にはハノイで人気のきのこ鍋店の支店が入っていました。ハノイで食べたことがありますが、なかなか美味しい店でした。
それにしても、東南アジアには鶏肉料理が多いように思います。ユーラシア大陸北部は羊肉の文化で、欧州まで行くと牛肉が加わります。大型の家畜は、飼育するために広い土地が必要になります。対して豚や鶏、とりわけ鶏は狭い場所で飼育できますから、密林や湿地帯の多い東南アジアに向いています。さらに気温の高い東南アジアでは、大型肉の貯蔵には限界があり、小型な鶏が食用に適していたのではないか、と思います。また、ムスリムも多く、かつ歴史的にはムスリム商人との関係が深かったことも影響しているのかも知れません。(写真:威南記海南鶏飯 出典:tabelog.com)