ザガットは、ミシュランに負けたわけではなく、ネット化されていなかったことで、調査方法が同じ”食べログ”に押されたのだと思います。かつてアメリカでは、モービル石油が出していた”モービル・トラベル・ガイド”が、旅の必須アイテムでした。やはりネット化が遅れたため、”トリップ・アドバイザー”に負け身売りしています。なお、現在は、フォーブス・トラベル・ガイドとして継続されています。また、ミシュラン日本進出の頃、ザガットで東京一の評価を得ていたのは、江戸川区篠崎の”焼肉ジャンボ”でした。もちろん評価の高い店ですが、東京中の和洋中の名店を抑えて一番というのも疑問でした。ユーザー評価方式には、やらせ、組織票、偏りといった問題が付き物です。
調査員方式にも弱点はあります。調査範囲の限界や評価視点といった問題です。初年度、ミシュラン東京版は、焼き鳥やラーメン等、下世話な庶民の味は調査対象にしていませんでした。また、5つの評価視点の一つに”革新性”があり、驚きました。江戸の頃から一切変わらぬ味という保守性をどう評価するのか疑問でした。東京中の鮨屋が、大トロに金箔を積み上げるようになるのではないかと心配しました。ミシュランは、安くて美味しい店を紹介するビブグルマンも出していますが、基本的には高級店ガイドといった風情です。そもそもミシュランはタイヤ・メーカーであり、ミシュラン・ガイドは、自動車旅行のためのガイドです。今でも、例えば、三ツ星は「それを味わうために旅行する価値がある卓越した料理」と表現されています。そんな旅ができるのは、セレブな方々ということになります。
ミシュラン・ガイドは、階級社会の文化だな、と思います。いずれにしても、西洋料理の視点、そしてセレブ向けといった視点で、日本の食の多様性をカバーすることには限界があります。その点を考慮すれば、やはり日本人には食べログかな、と思うわけです。もちろん、食べログもすべての店をカバーしているわけではありません。投稿する人たちも来ないような店の評価は、掲載されないか、評価も低くなるわけです。絵画や音楽にも評価というものが存在します。しかし、個人にとって大事なことは、”好きか嫌いか”ということにつきます。食事も似たようなところがあります。専門家が、いかに高く評価しようとも、美味しいと思えなければ、何の意味もありません。食べログも同様ですし、様々な問題もありますが、多くの人が美味しいと思ったのであれば、それは大いに信頼できます。また、食べログに掲載されている口コミも参考になります。
TVでは、いわゆるグルメ番組が目白押しです。馬鹿当たりはせずとも、一定の視聴率が確保でき、かつ制作費も安いので、多くなっているのでしょう。飲食店サイドが、一定のお金を払えば、制作会社が取り上げてくれるという話も聞きます。過日、客は私だけという昼過ぎのうなぎ屋で、制作会社とおぼしき人と店主の会話が聞こえてきました。制作会社は、取材させていただきますが、千円グルメという特集なので、千円のメニューを用意してください、というわけです。店主は、う~ん、と唸って絶句していました。レストラン・ガイドには、様々な問題もありますが、TVよりは数段信頼できます。星の数ほどあるすべての飲食店を評価するのは到底無理ですが、要は、使い方次第ということなのでしょう。(写真出典:amazon.co.jp)