ハマスは、1987年、インティファーダ(民衆蜂起)の際に結成されたイスラム原理主義組織です。ムスリム同胞団の流れを組み、武力闘争によるパレスティナ国家樹立を目指します。いかなる宗教でも、世俗化が進むと、原点回帰を訴える宗派が、必ず登場します。イスラム教原理主義は、シャリーア(イスラム法)に基づく政治、社会の実現を目指します。近年、イスラム原理主義は、過激派の代名詞にもなっていますが、例えば、サウディアラビアも、原理主義を根本に置く国です。アラビア半島中央部の有力部族であったサウディ家が、原理主義のワッハーブ派と手を結び成立したのがサウディアラビアです。前近代的な刑罰や男女差別等、世界中から人権問題への批判が集まっていますが、法体系が1,300年前のシャリーアを基本にしているからこそと言えます。
政治は、妥協を生み出すための仕組みですが、宗教、特に原理主義において、妥協は堕落に過ぎません。ハマスとイスラエルの対立は、イスラム原理主義とシオニズムの対立であり、政治的解決を困難なものにしています。間断なく続けられてきた両者の衝突ですが、武力の違いは、あまりにも大きく、大人と子供どころではありません。そこでハマスはテロも行うわけですが、一方のイスラエルも暗殺を常套手段にしています。イスラエルが、本気でガザ・ストリップを武力制圧しようと思えば、恐らく3日も要しないでしょう。ただ、国際的批判、イスラム諸国の干渉、そして占領後のゲリラ戦に悩まされることは明確であり、根本的解決にはなりません。ハマスも、それは十分に理解しています。ハマスが戦い続ける理由は、理念もさることながら、世界の目をパレスティナ問題からそらさないためでもあります。
国家を失い、2千年間も流浪してきたユダヤ人が、自らの国家を求める心情は、痛いほどよく分かります。しかし、入植して、住民と争いを起こし、安全確保のためと称して、武力を投入し、領土を拡大していくというシオニストの手法は、到底、許容できるものではありません。ホロコーストは、人権に対する史上最悪の犯罪ですが、だからといってシオニストの横暴が許されるものでもありません。2千年前は自分たちの土地だった、あるいは神が約束した土地だと言っても、それは自分勝手な言い分でしかありません。諸悪の根源を作ったのは大英帝国ですが、それを非難しても解決にはなりません。だからと言って、未来永劫、戦闘と停戦を繰り返すわけにもいきません。現実的には、究極の妥協策である両国家併存しか道はないと思います。
妥協が生むのは不満だけです。互いを信用できない者同士の合意では、将来の火種を温存するだけになりかねません。それを回避するためには、国際社会全体が関与した合意が必要となります。双方の不満は理解できます。双方が流してきた血の重さも分かります。それでも1947年の国連総会決議181号の分割案に立ち戻るしかないのだと思います。双方が国民の合意を取り付けるのは至難の業だと想定されます。しかし、それ以上に難しいのは、アメリカはじめ大国が自らの思惑を封印できるかどうかです。既に、問題はパレスティナだけに留まらず、中東全域に複雑に関わる政治問題になっているからです。(写真:21/5/14 Gaza Strip 出典:abcnews.go.com)