2021年5月24日月曜日

菊の花

”菊の花”
初めて高知へ行った夜は、皿鉢料理で宴会、スナックで二次会、お開きとなったのが真夜中でした。驚いたことに、平日の夜中の帯屋町は、まるで休日のような人通り。その雰囲気に飲み込まれ、数人で、もう一軒行きました。普通の居酒屋でしたが、ほぼ満席。気が付くと、やはり3件目だという隣の席の若い女性たちと、じゃんけんして負けたら日本酒を一気飲み、というゲームを始めていました。酒飲みの街とは聞いていましたが、心底、たまげました。

酒類の成人1人当たり1ヶ月の消費量、つまりごく単純な酒類の消費量で見ると、東京、沖縄、宮崎、大阪、高知という順番になります(2018年国税庁資料)。東京、大阪、沖縄あたりに関しては、他県からの通勤者、観光客が消費する分も含み、それを住民数で割るので、どうしても大きな数字になります。アルコール度数を加味したアルコールの成人1人当たり1ヶ月の消費量になると、東京、鹿児島、宮崎、沖縄、秋田となります。アルコール度数の高い焼酎の消費量が多い鹿児島、宮崎、沖縄あたりが高順位になります。個人的な印象として、酒飲みが多いのは、東北・新潟、そして九州だと思いますが、何といっても一番は高知だと確信しています。

例えば新潟の人たちは、日本酒自慢でもあり、本当に良く飲みます。一度、新潟から大勢で伊香保温泉へ出かけた時のことです。宿のご主人が、新潟のお客さまは、朝から日本酒を沢山飲んでくれるのでありがたいと言うのです。宴席なら分かるけど、まさか朝は飲まないでしょう、と応えると、いえいえ、明日の朝、確かめてください、と言われました。ご主人の言う通りでした。驚きました。まさに日本酒好きということです。対して、高知の人たちは、大酒飲みもさることながら、”おきゃく”と言われる宴会が大好きなのだと思います。宴席で、どれだけ沢山飲めるか、という一点に文化が集約されているようにも思えます。沢山飲めるように酒はすっきり辛口に仕上げ、女性も腰を据えて飲むために皿鉢料理が生まれ、何度も繰り返す返杯のマナーが根付き、沢山飲むための伝統的な遊びがあります。

最も有名な遊びと言えば、”箸拳”でしょう。二人で、手に隠して出した箸の本数を当てる遊びです。負けたら一気飲みです。高知弁の調子の良い歌に合わせて行いますが、これは訓練が必要です。”可杯(べくはい)”は、もっと簡単です。専用の独楽を使い、軸が向いた人が、出た絵柄の盃で一気飲みします。盃は、穏やかなおかめ、鼻に酒がたくさん入る天狗、口の先に穴の開いたひょっとこの3種類。これも、「べろべろの神様は正直な神様だ」で始まる歌に合わせて独楽を回します。それから「菊の花」があります。丸いお盆に、人数分の盃を伏せて並べ、一つだけ菊の花ひとひらを隠しておきます。一人が一つ開けていき、菊の花に当たれば、それまでに開いた全ての盃で一気飲みです。これも「菊の花、菊の花、開けてうれしや菊の花」という調子の良い歌に合わせて進めます。これも、人数が多いと、なかなかしんどいことになります。

高知の人たち30人くらいと、純高知式の宴会に臨んだことがあります。酔いつぶれることを覚悟して出かけました。返杯の嵐から始まり、お決まりの遊びが続きます。ところが、その夜に限って、一度たりとも一気飲みが当たりません。歌を歌い、手拍子を取るだけで、夜は更けていきます。店を出る頃には、ほぼ素面の状態でした。運が良いのか、悪いのか、まあ、こういう高知の夜もありかな、と思いながら、月の帯屋町をホテルへと戻りました。(写真出典:city.kochi.kochi.jp)

マクア渓谷