「チーム松山」の優勝だとする報道も多くありました。目沢コーチ、早藤キャディ、飯田トレーナー、そして通訳のボブ・ターナーというメンバーです。早藤キャディは、プレイ終了後、コースに一礼する姿が米国で話題になりました。今年、新たに加わった目沢コーチは、日大ゴルフ部出身。卒業後、米国に留学して日本人では数人しかいないTPI(米国レッスンライセンス)を取得しています。米国ツアーに参戦する日本の女子プロを指導してきたそうです。メンタル・トレーナーに関する報道がないところを見ると、恐らく、この目沢コーチが、技術面に加え、メンタル・トレーニングも行っているのではないかと思われます。メンタル・トレーナー資格の有無にかかわらず、TPIなら、当然、それくらいのことはできるのでしょう。
科学的なメンタル・トレーニングの歴史は、宇宙開発から始まります。1950年代初頭、旧ソヴィエトが、有人宇宙飛行に備えて、開発したとされます。ソヴィエトのオリンピック選手を育てるエリート体育学校では、50年代後半からスポーツへの応用も始めていたようです。1976年のモントリオール・オリンピックで注目され、世界的に広がっていったようです。日本では、1984年のロサンゼルス・オリンピック以降、普及していったようです。それまでも、スポーツの心理学的側面に関する研究はあったようですが、なにせ当時のスポーツと言えば、根性論の時代でした。ちなみに、日本には「心技体」という言葉があります。道を求める武道の在り方を伝える言葉ですが、根性論とも、科学的メンタル・トレーニングとも、似て非なる言葉です。
かつてプロのメンタル・トレーナーの話を聞いたことがあります。印象に残ったのは、マイケル・ジョーダンの”リスペクト”とタイガー・ウッズの”チェアー”という話でした。マイケル・ジョーダンは、チーム・メイト、相手チームのメンバー、レフリー全てをリスペクトするよう心掛けていたと言います。そうすることで、ミスにも、ラフ・プレイにも、ミス・ジャッジにも、怒ることも、動揺することもなく、自分のプレイを続けられたと言います。また、タイガー・ウッズは、ライバルを、常に応援(チェアー)することによって、一喜一憂することなくプレイに集中できたと言います。例えば、自分がトーナメント・リーダー、一打ビハインドの選手が最終ホールでバーディ・トライという場面でも、その選手を応援することで、プレイ・オフに持ち込まれた時のショックを和らげることができると言います。
メンタル・トレーニングは、いかに平常心をキープできるか、というのがテーマなのでしょう。だとすれば、究極のメンタル・トレーニングは、仏教ではないでしょうか。武田信玄の菩提寺である恵林寺の快川禅師は、寺が織田勢の焼き討ちにあった際、「心頭滅却すれば、火自ずから涼し」と言ってのけ、火中に飛び込んだと言われます。極端な例ですが、煩悩の滅却、という意味では、まさにメンタル・トレーニングです。完璧にそれができる、つまり悟りを開けば、僧は如来になります。残念ながら、実在が確認できる如来は、釈迦如来だけです。チベットのミラレパも釈迦の境地に達したと言われます。いずれにしても、数十億人に一人というレベルです。メンタル・トレーニングも、そう簡単なことではないのでしょう。世界のトップ・プロたちは、仏教でいえば、大師の下部くらいには達しているのかもしれません。(写真出典:bbc.com)