2021年2月5日金曜日

ゲームストップ

ニューヨーク証券取引所
かつて、戦場において、前線の状況は、通信兵が背負う無線機を通じて、小隊長から中隊長へ、中隊長から大隊長へ、大隊長から師団司令へと上がり、師団司令からの命令が、同じルートを逆に降りていきました。現在は、歩兵のヘルメットにカメラが付き、上空にはドローンのカメラがあり、コマンド・ポストは、世界中のどこからでも前線の状況を把握できます。そしてヘルメットに装着された小型無線を通じて、一人ひとりに、直接、指示を出します。無論、リーダーが不要になったのではなく、その役割が変わったと言えます。

インターネットは、すべてのインターミディアリーを排除する、というのが、私の持論です。機器類の進化も含め、情報革命は、よろず中間的な存在を不要なものにしていく傾向があります。例えば、アマゾンは書籍問屋や書店を不要なものにし、i-podはCDショップを不要なものにしてきました。最近は、キャッシュレス化が進み、紙幣や硬貨も不要になりつつあります。お金も、信用を仲介する中間的存在だったわけです。中間的な存在が不要になるのは、物や情報に留まりません。例えば、かつて、世論は、新聞や雑誌を通じて形成されていました。今は、SNS上で生成されます。

アメリカの株式市場で、これまでにないような性格の騒動が起きました。19ドルだったゲームソフト販売大手「ゲームストップ」社の株価が、一気に340ドルまで上がります。映画館経営のAMC社の株も同様の動きを見せます。その背景には、掲示板型ウェブサイト「レディット」の存在があります。同サイトの「ウォール・ストリート・ベッツ(WSB)」というフォーラムが、コロナ禍でのステイホームを背景に人気急上昇しました。そこで「ゲームストップ」社の株購入が呼びかけられると、瞬く間に拡散し、買注文が殺到しました。ウォール・ストリートには、激震が走ります。

早速、当局は何らかの規制を行うために、検討を開始したようです。株式市場の健全な運営という面からすれば、確かに違和感はあります。組織的な市場操作とも言えますが、SNSで「買おうぜ」と呼びかけることが組織的、あるいは共同謀議と言えるのか、単なる呼びかけを市場操作とまで解釈できるのか、やや疑問です。法規制がSNS環境に追いついていないことは明確なのでしょう。しかし、今回は、SNSの表面に絆創膏を張るだけでは済まないほど重い問題であり、より本質的に、マーケットのあり方を議論する必要があると思います。

レディット上では、市場の格言を逆さにした「高く買え、決して売るな」という言葉が拡散しているようです。つまり、今回の騒動の本質は、値上益を求める強欲ではなく、ヘッジファンドやインベストメント・バンカーや当局といった市場の支配者に対する個人投資家の反逆だということです。今のところ、反逆者たちは、支配者たちがうろたえる姿を喜んでいるだけで、何か明確な主張や要請は見えていません。しかし、1789年、パリの民衆がバスティーユ牢獄を襲った時、それが近代社会を開く市民革命の始まりだと認識していた人は、誰一人いなかったはずです。(写真出典:ja.wikipedia.org)

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