2020年12月17日木曜日

杜氏

日本酒は、本当に美味しくなったと思います。すべての銘柄を飲んだわけではありませんが、全国、どこで飲んでも美味しくなったと思います。47都道府県の日本酒を揃えてある神楽坂の店で、何度か分けてではありますが、一応全県制覇しました。結果、鹿児島と沖縄を例外として、すべて一定レベル以上でした。南の両県は、芋焼酎と泡盛の国ですから、やむなしでしょう。かつて、日本酒は、ベタ甘かったり、ひどい二日酔いになったりという印象がありましたが、今は、まったく異なる高いレベルにあると思います。

酒類全体の出荷量は、1999年をピークに、最近では1割程度減っています。若い人たちの酒離れが主因と言われます。日本酒に限って見れば、1973年の出荷量が最高でしたが、近年は1/3にまで落ち込んでいます。確かに、酒類は多様化が進み、日本酒は、ビール、ワイン、焼酎に押される一方でした。日本酒業界にとっては、実に不幸な歴史ですが、皮肉なことに、それが日本酒のレベルを上げたとも言えるのではないでしょうか。厳しい言い方をすれば、酒と言えば日本酒だった時代、地元の需要にあぐらをかいていた商売が、競争の時代を迎えたもと言えます。

かつての日本酒は、生産量が重視され、混ぜ物が多く、それが悪酔いの原因でもありました。全体の出荷量が減り、淘汰される時代になったことで、品質管理も高度化されました。品質とともに、追及されたのが味でした。山形の十四代、福島の飛露喜といった地酒の人気が高まり、なかなか入手できない状態になったことも、味の競争に拍車をかけました。中小の蔵元だからこそ、杜氏の腕が活かされ、かつ問われる時代になったわけです。背景としては、情報と流通が進化したことも無視できないと思います。

酒造りには、多くの専門職が関与しますが、杜氏は、その統括責任者です。かつては、農閑期に、農家の出稼ぎとして行われてきました。越後杜氏、南部杜氏、丹波杜氏等々、各地の杜氏が伝統の技を継いできました。近年は、杜氏の常勤社員化が進んでいるようです。皮肉なことに、社員化したことで後継者問題や技術の伝承が難しくなりつつあるようです。そこで各蔵元は、勘に頼らない数値管理手法等を試みているようです。その最先端が、杜氏を使わない山口の獺祭ということになります。獺祭は人気ですが、杜氏が関与しない酒は、いささか気持ちが悪いところがあります。

杜氏は、常温で酒のうま味や個性が際立つように仕込むものだと聞いたことがあります。ですから、飲み方としては、常温、ないしは、味はそのままに香りを発たせる”ぬる燗”がベストということになります。新潟のなかなか良い店で、日本酒通の方とご一緒した際、ぬる燗が熱すぎる、こんなもの飲めるか、と突っ返す場面がありました。私は、ほど良いぬる燗に思えたのですが、通は違うものだと感心しました。(本利き猪口 写真出典:rakuten.co.jp)

マクア渓谷