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冨美家鍋 |
鍋焼きうどんと言えば、かつてはアルマイトの小鍋で出されていたものですが、今や小ぶりな土鍋が定番化しています。これも高級化の証左です。北国では、アルマイトにホーロー引きの鍋が定番でした。鍋蓋には、よく海老の絵がありました。今では、まったく見かけません。今でも、アルミ鍋にこだわっているのが、鍋焼きうどんをご当地グルメとしている愛媛県松山市です。そもそも松山が鍋焼きうどんを名物にしていること自体が不思議です。聞けば、昭和22年、砂糖など手に入らなかった時代、「アサヒ」が甘い出汁の鍋焼きうどんを出したところ、大評判となり、2年後には「ことり」が開店。この2店の人気が、鍋焼きうどんの街を作ったようです。
「ことり」で鍋焼きうどんを食べましたが、甘いというよりも、いりこ出汁の風味が見事でした。北国も、かつては煮干し出汁でしたが、独特のえぐみが安っぽい印象でした。それはそれで懐かしいのですが、今は、どこも昆布出汁になりました。「ことり」のいりこ出汁はえぐみのない、さすが瀬戸内と言いたくなるようなものでした。具材は、海老天も入らず、極めてシンプルでした。愛媛県も讃岐うどん文化圏だとは思いますが、松山の鍋焼きうどんに限っては、コシは強くありません。やはり、出汁がからみやすい麺を選択しているのでしょう。
他に鍋焼きうどんの街と言いたいのは、京都です。京都はうどんの街です。出汁自慢ゆえ、柔らかい麺が主流。「山元麺蔵」、「岡北」はじめ大行列店も美味いのですが、私のお気に入りは「冨美家」です。京都へ行った際には、冨美家鍋は欠かせません。実にやさしい出汁は癖になります。京都は、底冷えの街ゆえ、あんかけうどんが名物。卵とじ、九条ネギいっぱいのネギうどんもいいのですが、鍋焼きうどんも定番です。私は、冬に限らず、夏でも冨美家鍋です。イタリアで骨折して、自宅療養を始めた際、いの一番に食べたいと思ったのも、冨美家鍋でした。取り寄せも可能なので、美味しく食べることができました。
鍋焼きうどんの歴史は、はっきりしません。江戸後期には、大阪の屋台で人気だったようです。明治になって東京にも伝わり、深川界隈でブームに火が付いたようです。あまりの人気に、江戸の名物夜鷹そば屋が姿を消したと言います。その深川ですが、現在は、鍋焼きうどん不毛の地となっています。江東区全体まで広げてみても、鍋焼きうどんは、なかなかお目にかかれません。(写真出典:kyoto-fumiya.co.jp)