鮭は冬の味覚の代表。王道は何といっても焼鮭だと思います。私は、飯寿司の他に、三平汁も大好きです。寒い日の三平は最高です。生ではなく、塩鮭を使うと、うま味、油、塩の塩梅もとても良くなります。鮭は塩を振ることで、うま味が引き出される、と聞きます。開高健の「OPA! OPA!」だったと思いますが、かつてアマゾン流域に入植した日本人が、鮭によく似た味の魚を見つけ、塩をして故郷の味だと喜んで食べた、という話が出てきます。ただ、塩鮭もどきばかり食べていたので、皆、脳卒中になり、村は壊滅状態になったそうです。アマゾン開拓の厳しさを思えば、何とも切ない話です。
さて飯寿司ですが、基本的には、魚類等を飯と塩を使って乳酸発酵させるなれずしの一種です。北海道から日本海側北部にかけて郷土料理として分布します。なれずしと言えば、琵琶湖の鮒ずしが有名ですが、金沢のかぶら寿司、福井のへしこ、秋田の鰰(はたはた)の飯寿司もよく知られています。発酵期間中、腐敗しやすいので、空気に触れさせないこと、そして気温の低さが絶対条件となります。ですから、寒冷地ならではの食文化だったわけです。
なれずしは、稲作と同じくらい古い歴史を持つと言われます。中国南部の少数民族から発祥し、東南アジア全域に広がったようです。中国南部の山間部では、数十年も川魚が漬けられていると聞きます。なれずしは、稲作と同時に日本にもたらされたという説があるようですが、確認できません。琵琶湖の鮒ずしは、奈良時代の木簡等に確認できるそうです。平安中期の延喜式には、各地のなれずしが、租として納らていることが記載されているとのこと。いずれにして、動物性たんぱく質の保存法としては随分古い歴史があるわけです。
なれずしは、発酵に時間がかかるため、酒や糀を使って早く作る方法が編み出されます。いわば浅漬けですが、発酵に使った飯も食べるようになります。発酵が浅く、酸味がものたりなかったのか、調味料に酢を使い始めたようです。さらに江戸期になると、酢で飯に酸味を効かせながら、魚は発酵させない早ずしが考案され、大人気となります。いわば”なんちゃってなれずし”ですが、これが今に続く寿司になるわけです。寿司は発酵させていないので、なれずしとは明らかに別物です。すしとは呼べないのではないかとも思います。(写真出典:sato-suisan.co.jp)