2020年11月28日土曜日

タブラ

 

アラ・ラカ
タブラは、北インドを代表する打楽器です。それぞれ独立した高音のタブラと低音のバヤが一対となりタブラと呼ばれます。密閉型の胴にヤギの皮を張り、表面中央部には、鉄粉などで作った黒い塗料が塗られ、低音を出しやすくしてあります。タブラの胴は木製、バヤは金属製が多いようです。20数種類という多彩な音を表現することができ、複雑なインドのリズムを鮮やかに刻みます。

かつて、世界中、どこにでも太鼓があることに気づき、行く先々で、手ごろなサイズと値段の太鼓を買っていた時期があります。パキスタンのカラチで、バザールへ行った際、近くにタブラの製造販売をしている店を見つけました。ツアーで知り合った人と二人で店に入り、タブラを買うことにしました。高音のタブラだけ欲しいと言うと、バヤと一対なので単品販売はしないと言われました。そこで一対のタブラを買い、二人で分けることにしました。まぁ、本格的に演奏するということではなく、ただの土産ですから、それで十分だったわけです。じゃんけんに勝った私は、迷わず高音のタブラを選択しました。見様見真似で叩いても、十分に楽しめました。多様な音を出す極めて水準の高い打楽器と言えます。

インダス文明、インド・アーリア人による支配にはじまるインドの長い歴史ですが、7世紀、イスラムの勃興にともない、しばしばその侵攻を受け、17世紀のムガール帝国へとつながります。13~14世紀にインド北西部を支配したのは、トルコ・イスラム系のハルジー・スルターン朝。その宮廷音楽家だったアミール・クスローがタブラを発明したとされます。タブラという呼称も、もとはアラビア語です。ちなみに、同じく北インドを代表する楽器シタールも、アミール・クスローの発明とされています。

日本で、タブラが知られるようになったのは、明らかにラヴィ・シャンカールの影響です。ラヴィ・シャンカールは、インド音楽を世界に広めたシタール奏者です。おりしもサイケデリック・ミュージック全盛の頃、ウッドストックやモントレーのフェスにも参加、ビートルズはじめ多くの音楽家に影響を与えました。そして、シャンカールと常に同行していたのが、タブラの達人アラ・ラカでした。ちなみに、シャンカールの娘はシタール奏者のアヌーシュカ・シャンカールとジャズ・シンガーのノラ・ジョーンズ、アラ・ラカの息子はタブラ奏者のザキール・フセインと、いずれも世界的音楽家として活躍しています。

インド文化のほぼ全てが、4千年前の宗教文書ヴェーダを起源としています。インド音楽もヴェーダの朗誦に始まるとされます。歌唱を主とする南インド音楽は、宗教色が色濃く残り、即興を重視する北インド音楽は、イスラムの影響も含め、宮廷で育まれた音楽と言えます。独特のメロディは、ラーガと呼ばれる旋律体系で細かく定められ、リズムはターラで体系化されています。ラーガは、3万5千種類あるとも聞きます。スキがあれば踊り出すボリウッド映画の音楽も、古い伝統を持つラーガとターラに則り演奏されています。(写真出典:indianexpress.com)

マクア渓谷