2019年スウェーデン・ドイツ ・ノルウェイ 監督:ロイ・アンダーソン
☆☆☆+
ロイ・アンダーソンの映画は、なぜか好きです。クセになります。ただ、どんな映画なの、と聞かれると困ってしまいます。よくジャック・タチが引き合いに出されますが、コミカルであっても断じて異なる作風です。シュールではありますが、典型的なシュールとも多少違うように思います。強いて言うなら、エドワード・ホッパーの絵に、シニカルなダーク・コメディの要素を乗せて、動きを付けたもの、という感じでしょうか。1シェークエンス、1カット、固定カメラ、そして動かない人々という手法が絵画的印象を与えます。「ホモ・サピエンスの涙」は、その傾向が行くところまで行った感じです。もはや、少しだけ動く絵画、と言っても過言ではないでしょう。ロイ・アンダーソンは、1947年、スウェーデン生まれ。27歳で初監督作品「スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー」を撮り、高い評価を得ます。しかし、同じ傾向の作品を期待されることに反発し、5年をかけて準備した後、ダーク・コメディ「ギリアップ」を発表します。しかし、評価は最悪、興行は大失敗となり、以降、映画の世界を離れ、コマーシャル・フィルムの監督として25年間を過ごします。CF制作の傍ら、短編映画の制作を開始。91年には「World of Glory」を発表。短編映画史に残る傑作とされました。既に絵画的作風が明確で、よりダークな表現になっています。
そして2000年、「散歩する惑星(原題:2階からの歌)」で長編映画制作に復帰し、いきなりカンヌで審査員賞を獲得するなど、高い評価を獲得します。2007年にリリースされた「愛おしき隣人(原題:あなたは生きている)」も各映画祭で受賞し、2014年には「さよなら、人類(原題:鳩が枝にとまり人生を考えてみた)」で、ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞を獲得しました。以上の3部作は、リビング・トリロジーと呼ばれ、ロイ・アンダーソンの独特のタッチを世界に知らしめました。
実は、ロイ・アンダーソンの独特のタッチは、北欧の人々にとっては違和感のないものかもしれません。もちろん、表現自体はユニークなものですが、その感性においては北欧らしさを感じます。北欧の人々に共通する、よそよそしさ、冷めた印象等は、ルター派という宗教的背景、ジャンテ・ロウに代表される価値観に基づくものだと思います。ハマースホイやムンクの絵、ベルイマンの映画、あるいはTVのノルディック・ノワールにすら、同じ匂いがあります。いずれにしても、北欧ならでは映画だと思います。
ロイ・アンダーソンの”動く絵画”という印象は、撮影手法によるところも大きいと思います。CGを使わず、セットを組み、ミニチュアやペインティングで遠景を作り込みます。CGかセットか、という単なる方法論ではないのでしょう。彼は、撮影するための絵画を描いているのだと思います。例え、どれだけ時間がかかろうとも、それがロイ・アンダーソン映画の本質である以上、セットで撮り続けるのでしょう。(写真出典:eiga.com)