かつて、スペインに6か月以上滞在するためには、滞在ビザが必要であり、その滞在ビザの取得条件の一つが、スペインに6か月以上滞在していることだったと聞きました。事の真偽ははっきりしませんが、アメリカ人が使うイディオム「キャッチ22」の実例として、友人のアメリカ人が話してくれました。キャッチ22は単語ではないこともあり、適切な日本語訳が存在しないように思います。要は、二律背反的な状況、ということです。
キャッチ22は、ジョゼフ・ヘラーの小説「キャッチ22」(1961)に由来します。軍規第22条は「精神に異常をきたした者は、自ら出頭してその旨を申告すれば、飛行免除になる」という規定ですが、自ら出頭できるということは正常な証拠なので飛行免除にはならない。これが22条の落とし穴、つまりキャッチ22というわけです。戦争の不条理を、独特なユーモアをもって描いたベストセラーであり、アメリカでは20世紀を代表する名著の一つとされています。
1970年、マイク・ニコルズ監督が映画化。アメリカン・ニュー・シネマの巨匠が「卒業」の次に監督した作品です。不条理が積み重なっていく世界を、斬新なアングルと、フェリー二ばりの幻想的な映像で構成した作品です。特に印象的だったのは、爆撃機の描き方。ヨタヨタとタキシングし、無様な編隊で出撃する姿は、戦争映画では決して見ることのない映像でした。主演はアラン・アーキン、脇を固めるのはオーソン・ウェルズ、マーティン・バルサム、アンソニー・パーキンス等々と名優揃いの映画でした。
同じ年に公開され、同じように戦争の不条理をユーモラスに描いた「M★A★S★H」は高い評価を得て大ヒット。対して「キャッチ22」は、あまりパッとしませんでした。特に日本では、映画だけでなく、小説もパッとしません。やや病的で難解な不条理の世界、あるいは独特のユーモア・センスが日本人の感覚に合わなかったのでしょう。
思えば、戦争自体がキャッチ22的だとも言えます。平和を守るために戦争する、戦争すれば平和は守れない。作中、様々なバリエーションで繰り返される「狂っているのは誰だ」というフレーズは、常に発し続けるべき、大事な問いかけのように思います。(写真:machinationlog.com)