2020年9月17日木曜日

恐山

学生時代に占い研究会で活躍していたという後輩がいて、何度か手相を見てもらいました。そのうちに、手相見のテクニックの一端が見えてきました。まずは、手を握っても、しばらく何も言わないことです。見てもらう側の不安が募ります。そして「う~む」とうなります。ここで、見てもらう側の不安感は最高に高まり、もう何を言われても信じる態勢が出来上がります。

いわゆる霊媒師も同じなのではないでしょうか。そもそも親しい人の霊を降ろすと決めた段階で、既に信じる気持ちになっています。下北半島の恐山は、霊媒師イタコで有名ですが、イタコが霊を降ろした際、最初の一言は決まって「痛でじゃ、痛でじゃ」だと聞きます。確かに死ぬときは、どこか痛いものなのかも知れません。依頼した側は、この一言で、ドォーと涙を流し始めるそうです。なお、霊が語る内容は、仏事や火の用心等、家に関わる一般的な戒めが多いと聞きます。

恐山は活火山です。カルデラ湖である宇曽利山湖のほとりに硫黄の吹き出す荒涼とした地獄が広がります。中心には恐山菩提寺があります。第3代天台座主の円仁が、862年に創建したとされます。円仁創建という寺は、浅草寺、中尊寺、瑞巌寺、山寺等々、東国に山ほどあります。801年に、阿弖流為が坂上田村麻呂に降伏し、ほどなく朝廷軍は本州北端に達します。おそらく、その時、恐山の異様な光景も都にも伝えられたのでしょう。朝廷が、蝦夷地管理のために延暦寺も活用したことは想像に難くありません。天台座主自らというよりは、延暦寺の僧侶が東北一円に散ったのだと思います。

恐山は、日本三大霊場の一つとされます。他の二つは、比叡山と高野山です。密教の両本山と同列とは、いささか言い過ぎのようにも思います。ただ、最果ての地の異様な光景は、地獄、あるいはあの世の入り口として、誠に相応しいとも思えます。ゆえに霊媒師イタコも集まるのでしょう。イタコは、蚕の神おしら様信仰の盲目の巫女であり、恐山の大祭等のおりにだけ、北奥羽一円から集まるようです。

昔、雑誌記者が、イタコに、マリリン・モンローを降ろしてもらった、という話がありました。やはり第一声は「痛でじゃ、痛でじゃ」だったそうです。モンローもなまっていた、という落ちですが、そもそも英語じゃないの、とも思いました。(写真出典:aptinet.jp)

マクア渓谷