あらためて、松原久子の言う通りだな、と思わされたのが「おいしい浮世絵展」です。江戸期の食文化を描いた浮世絵を集めた森アーツ・センターの企画展です。江戸の名物「寿司、蕎麦、天ぷら」と言いますが、当時確立した調理法は、ほぼ現代と変わりません。そして、それらが成立した背景には、多くの技術革新がありました。そもそも浮世絵自体、製紙技術、彩色技術、分業体制、物流等の革新のうえに成り立っています。

日本酒は、1600年に鴻池善右衛門が大量生産技術を開発し、一気に生産量が増えています。味醂は、江戸初期、甘い酒に焼酎を加えて作る手法が確立し、甘酒のみならず調味料としての利用が広まります。砂糖は高価な輸入品でしたが、徳川吉宗の肝いりもあって、急速に国産化が進みます。さらにうな重まで考えれば、江戸期は、新田開発と生産技術の改良で、米の生産量は一気に拡大しています。
そもそも江戸前の鰻自体ですが、家康が江戸の整備のために江戸湾の干拓を進めた結果、湿地が多く出現し、鰻の漁獲量が増えたようです。鰻の蒲焼には、近世日本が成し遂げた革新が詰まっていたわけです。
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