2020年9月5日土曜日

「この世の果て、数多の終焉」

2018年フランス      監督:ギヨーム・二クルー

☆☆+

1945年、仏領インドシナ、兄夫婦を日本軍に惨殺されたフランス兵が、それを笑いながら見ていたベトミンの司令官に対する復讐に執着し、我を失っていく。ベトナム北部のジャングルのむせかえるような湿度が伝わってくる映像、戦争の残忍さを伝えるえげつない映像が印象的でした。映像に頼りすぎる面があり、脚本が映画としてのドラマを作れていない、かつ演出もそれに引きずられ、映像詩としてもドラマとしても中途半端になっていました。

フランスは、19世紀半ば、インドシナ半島の東部一帯を植民地化します。第二次世界大戦が勃発すると、ナチス・ドイツに占領されたフランスにヴィシー政権が誕生。日本は、ヴィシー政権との合意のもと、インドシナに進駐します。ヴィシー政権が倒れると、日本軍は連合国側となった仏軍を制圧。日本の敗戦とともに、仏軍はインドシナを再度支配します。その間も、ホー・チミン率いるベトミンのゲリラ戦は続いていました。ベトミンと日本軍が協力して仏軍を攻撃するなど聞いたことがありません。ただ、三者が入り乱れる戦場では、様々なことが起きていたとしても不思議ではありません。

やや文学的になりすぎる傾向のある映画ですが、構図的な部分も見えます。ジャングルの奥へ奥へと引きずり込まれる主人公はフランスそのもの。少女時代に主人公を助けた娼婦の存在は人間性の象徴。戦友たちは、敵の銃弾と同時にジャングルの自然によって死んでいきます。また、名優ジェラール・ドバルデュー演じる文化人の存在は、アジアを愛しながらも何もできないフランスの文化を皮肉的に捉えていように見えます。

世界の果てのジャングルに、数多の終焉が訪れます。ただ、ベトミンだけは生き残るわけです。ホー・チミンの訓えのなかで今でも最も重要なものは何か、ということをベトナム人から教わりました。それは「最も大事なことは民族の独立」だというのです。フランス、アメリカとの戦争で、数多どころではないベトナム人が終焉を迎えました。しかし、彼らは、民族の独立という大義に殉じたのであり、この世の果てで、何のために戦うのかも分らぬまま、姿の見えない敵と戦い、死んでいったフランス、アメリカの若者たちとは大いに異なるわけです。
写真出典:eiga.com

マクア渓谷