
分かりやすい話ですが、当然、双方向性があるわけです。中央アジアのトゥーラーンが起源とされるアーリア人は、南進したイラン・アーリア人と、東進したインド・アーリア人に分かれます。インド・アーリア人は、侵略の途上、各地の疫病に苦しめられます。そこで、彼らは、アーリア人以外との接触を禁止します。今も変わらぬ防疫の基本ですが、これが悪名高きインドのカースト制の起源だとされます。マクニールは、カーストの外に位置付けられる不可触民の「不可触」と言う言葉にも、防疫の発想が見えると言っています。
訪れてみると、インドは驚きに満ちています。どんな街でも多数見かける路上生活者アウトカースト、不可触民の存在も、その一つ。その数は、総人口12億のうち2億人と言われます。DNA分析上、独立した民族ではりません。死体処理、汚物処理等、いわゆる不浄の職業に起因する身分なのでしょう。法的には、半世紀以上前にカーストは撤廃されていますが、実態上は存続しています。日本の被差別部落問題と同じ構図です。
インド・アーリア人の防疫対策は、ヒンドゥー教の身分制度ヴァルナ、共同体制度ジャーティとして確立されます。巨大な国の管理上、極めて有効な制度だったと思われます。後に欧州による植民地化が進んだ際にも、分断政策として機能します。ちなみにカーストという言葉はポルトガル語起源であり、インド人は使いません。いずれにしても、為政者が管理のために生み出した差別です。
ちなみに、人間は、捕食者を狩りで絶滅させてきたが、それは目に見える敵だけだった。目に見えない敵を考えれば、我々は、依然、食物連鎖のなかにある、とマクニールは言っています。名言だと思います。
ウィリアム・マクニール「病役と世界史」 写真出典:Amazon.com