
思えば、日本人は、昔から大の旅行好き。比較的移動が容易な狭い国土、南北に長く風土の異なる各地の存在、識字率の高さによる情報共有が進んでいたこと等が背景として考えられます。江戸期、原則として、移動の自由はありませんでした。ただ、参拝や湯治等は大目に見られていたようです。最も人を集めたのはお伊勢さんと言われます。「一生に一度はお伊勢参り」のキャッチ・コピーが効いたわけです。年間最大400万人と言われたお陰参りは、当時の日本人の10人に一人が行った勘定になります。
対して欧州では、旅は基本的に貴族や上流階級のもので、庶民は旅行等していなかったようです。従者のいる人たちに旅行鞄は必要ありません。産業革命以降、市民階級が豊かになり、かつ鉄道の普及によって旅行が始まり、旅行鞄の必要が生まれます。ですから、そもそも旅行鞄は、鉄道移動を前提に誕生したと言えます。
世界で最初の旅行鞄専門店は、1854年に創業したパリのルイ・ヴィトンです。平積みできるトランクに布を張った旅行鞄は評判となり、模造品も出回り始めます。コピー防止の観点から作られたモノグラムは、万博で見た日本の家紋に着想を得たというのは有名な話です。ちなみに日本人で最初にルイ・ヴィトンの鞄を購入したのは板垣退助。自由民権運動の父にして、庶民派政治家として知られる人がヴィトン最初の顧客というのも面白い話です。
振り分け荷物 写真出典:amazon.co.jp