クレオパトラ、楊貴妃、小野小町とくれば「世界三大美女」ということになります。誰も見たことがないうえに、小野小町の入選は胡散臭さの極致。実は、明治中期の読売新聞が出所のようです。世界三大料理と言われるのが、フランス料理、中華料理、トルコ料理。こちらは世界的にも知られているようです。欧州の料理人たちが言い始めたらしいのですが、基準もはっきりしません。要は、近世まで、強大な王朝が存在した大国ばかりなので、正確には「世界三大宮廷料理」なのだと思われます。

フランスの宮廷料理は、ほとんど建築的であり、高さを重視した大皿料理だったようです。それを分解し、一皿づつ提供するコース料理に変え、大衆化したのが、近代フランス料理の父と言われるエスコフィエです。コース料理自体は、ロシア宮廷に一部見られたようですが、エスコフィエによって大衆化されたわけです。市民が豊かになった時代を反映しているのでしょう。エスコフィエの著書「料理の手引き」(1903)は、5千を超えるレシピが掲載され、いまだフランス料理のシェフたち必携の本だそうです。また、厨房の効率化、料理人の待遇改善にも取り組んだことでも知られています。ちなみに、エスコフィエは背が低いことを引け目に思い、背の高いコック帽を愛用していました。それがフレンチのコック帽の背が高い理由だそうです。
オーギュスト・エスコフィエは、1846年、ニース郊外に生まれます。13歳からこの道に入り、招集された普仏戦争では、不十分な食材から美味い料理を生み出す腕を磨いたと言われます。モンテカルロのグランド・ホテルのシェフを経て、セザール・リッツと意気投合したエスコフィエは、ロンドンのサボイ、ホテル・リッツ等でシェフを務め、世界の著名人たちを魅了しました。彼の死後、弟子たちが設立したエスコフィエ協会は、世界中に支部を持ち、今もフランス料理界の中心を担っているようです。エスコフィエの名言「料理は時代とともに変わっていくべきである」は、後輩シェフたちを指導するうえでの最高の言葉のように思えます。
スポーツ評論家の二宮清純氏から聞いた話ですが、フランスのスポーツ・ライターと「サッカーにおける指導者」というテーマで対談した際、うまい例え話を聞いたというのです。「二つ星のシェフとは、世界中から最高の食材を集め、世界最高の料理を作る人。三ツ星のシェフとは、目の前にある食材だけを使い、世界最高の料理を作る人」さすがフランス人。実に見事な例え話です。
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