2020年7月6日月曜日

「去年マリエンバートで」

1961年フランス・イタリア  監督:アラン・レネ 脚本:アラン・ロブグリエ

☆☆☆☆

昨今は、デジタル・リマスター版なるのもで、かつての名作が見れるのが、楽しいと思います。「去年マリエンバートで」を名作と呼ぶには、異論もあるでしょう。ヴェネチアでは金獅子賞を獲っていますが、あまりにも挑戦的な作法が議論を呼びました。しかし、その独特な手法、そしてそれが醸し出しす独特のミステリーは、映画史に残すべき価値があると思います。

芥川龍之介の「藪の中」、それを原作とした黒澤明監督の「羅生門」から着想を得たと言われます。一つの事件に関与する複数の人たちが、それぞれ異なる見方・供述を示し、真相は分からないというスタイルです。「藪の中」での真相は、まさに藪の中のまま。「羅生門」では真相と思われる供述が最後に示されます。この2作で、各人の供述は、順番に、並列的に語られます。「去年マリエンバートで」が、この2作と最も異なる点は、各人の見方・供述が直列的に示されることです。例えて言えば、芥川も、黒澤も、複数のかまぼこを一本づつ見せます、ロブグリエは、紅白のかまぼこを輪切りにしたうえで交互に重ね、あたかも紅白まだら模様の一本のかまぼことして見せます。

極めてミステリアスとも、わけが分からないとも言えます。ただ、ロブグリエは、各人の見方である供述を慎重に裁断し、ダイアグラムを使って精緻に組み上げたと言っています。陳述する者毎に、衣装やセットを変え、観客が、誰の主観なのかを追えるように工夫されています。ある意味、数学的に構成された映画とも言えます。メモを片手に、その構成を分解してみたい衝動に駆られます。ま、面倒なので、やらないとは思いますが…。

演出も、そういった数学的趣向を生かすために、まるでスティール写真の積み重ねのような画面になっています。また、二ムというゲームが何度も登場します。これも必勝法が証明できるという数学的ゲームであり、本作の数学的趣向を象徴しているのでしょう。さらに、ココ・シャネルが担当した衣装が見事で、映像的な魅力をしっかり確保しています。

この映画を象徴する庭のロケは、ミュンヘンの二ンフェンブルグ宮殿で行われました。数年前、二ンフェンブルグ宮殿を訪れ、その庭を目にした時、今「去年マリエンバートで」の世界にいるんだと思い、やたら感動し、いつまでも浸っていたいと思いました。
写真出典:amazon.com

マクア渓谷