2020年7月6日月曜日

セットのイカ

セットは、南仏、地中海沿いの港町。ラングドックのヴェネツアとも呼ばれるリゾート。17世紀に地中海と大西洋を結ぶために掘削されたミディ運河の起点でもあります。運河沿いにはシーフード料理店が軒を並べます。人気は、名物のイカのセット風煮込み。ただ、私は、単純なイカの鉄板焼きを食べました。衝撃的なうまさでした。呼子のイカと共に、人生二大イカ料理です。呼子のイカは、刺身と天ぷらの甘さ、セットのイカは凝縮されたうまみ。

セットで食べたイカの鉄板焼きは、極めて単純な料理です。新鮮なイカを鉄板のうえで、オリーブオイルと塩をかけて、サッと火を通すだけ。思えば、日本は、新鮮な魚介を刺身で食べることが多く、他は焼く、煮るが中心。サッと火を通すと言った料理は、鰹のたたき等もありますが、少ないように思います。生食文化のない欧州だけに、欧州風刺身といった風情でしょうか。ただ、軽く火を通すだけで、魚介のうまみが増します。特にイカは、その傾向が強いような気がします。

もちろん、家でもやってみました。うまくいかないのです。鉄板も、火力も、オリーブオイルも、塩も違うのでしょうが、何といっても新鮮なイカがないと成立しないわけです。総じて地中海沿岸で食べるイカはおいしいと思います。単に新鮮だからなのか、種類が違うのか、よくわかりませんが、うまみが濃いように思います。どうも、スルメイカやヤリイカでは、あの味は再現できないように思います。やはり、うまいイカを食べに地中海まで出かける必要がありそうです。

ヌーベルヴァーグを代表するアニエス・ヴァルダ監督のデビュー作「ラ・ポワント・クールト」の舞台はセットです。のどかな漁村の暮らし、水上槍試合の盛り上がり、何より海辺の空気感を伝える感性豊かな映像が印象的です。おそらく、この映画に描かれたひなびた風情こそが、本当のセットの魅力なのでしょう。ちなみに、フランスの知性とまで呼ばれた詩人で評論家のポール・ヴァレリーは、セットの出身です。
写真出典:cruise-life

マクア渓谷