
セットで食べたイカの鉄板焼きは、極めて単純な料理です。新鮮なイカを鉄板のうえで、オリーブオイルと塩をかけて、サッと火を通すだけ。思えば、日本は、新鮮な魚介を刺身で食べることが多く、他は焼く、煮るが中心。サッと火を通すと言った料理は、鰹のたたき等もありますが、少ないように思います。生食文化のない欧州だけに、欧州風刺身といった風情でしょうか。ただ、軽く火を通すだけで、魚介のうまみが増します。特にイカは、その傾向が強いような気がします。
もちろん、家でもやってみました。うまくいかないのです。鉄板も、火力も、オリーブオイルも、塩も違うのでしょうが、何といっても新鮮なイカがないと成立しないわけです。総じて地中海沿岸で食べるイカはおいしいと思います。単に新鮮だからなのか、種類が違うのか、よくわかりませんが、うまみが濃いように思います。どうも、スルメイカやヤリイカでは、あの味は再現できないように思います。やはり、うまいイカを食べに地中海まで出かける必要がありそうです。
ヌーベルヴァーグを代表するアニエス・ヴァルダ監督のデビュー作「ラ・ポワント・クールト」の舞台はセットです。のどかな漁村の暮らし、水上槍試合の盛り上がり、何より海辺の空気感を伝える感性豊かな映像が印象的です。おそらく、この映画に描かれたひなびた風情こそが、本当のセットの魅力なのでしょう。ちなみに、フランスの知性とまで呼ばれた詩人で評論家のポール・ヴァレリーは、セットの出身です。
写真出典:cruise-life