2020年7月7日火曜日

勝った者が強いのだ

少し前のことになりますが、格闘技団体がしのぎを削り、盛り上がっていた頃、しきりと言われた言葉が「強い者が勝つのではない。勝った者が強いのだ。」いい言葉だな、と思いました。あまりにも格闘技の世界にピッタリなので、誰か格闘家が言いはじめた言葉だと思っていました。

実は、70年代、世界のサッカー界に君臨した皇帝ことフランツ・ベッケンバウアーの言葉でした。ディフェンダーながら、ゲームを組み立て、攻撃の起点となっていくリベロ・システムを確立したと言われます。冷静沈着、静かながら強いリーダーシップ、貴公子のようなプレイ・スタイルから皇帝と呼ばれました。

74年のワールドカップ西ドイツ大会決勝は、ベッケンバウアー率いる西ドイツと、これまた70~80年代、フライング・ダッチマンと呼ばれ世界をリードしたヨハン・クライフ率いるオランダの戦いとなりました。当時のオランダ・チームは、理論上は最強ながら実現は難しいと言われた「トータル・フットボール」を武器に最強を誇っていました。トータル・フットボールは、ポジッションに関わらず、全員が守り、全員が攻撃するサッカーです。全プレイヤーが高い技術と強靭なスタミナを共有し、そのうえで鳥の目をもってゲームを俯瞰できるリーダーが求められます。

オランダには、それができるヨハン・クライフがいたわけです。試合前のオッズは、圧倒的にオランダ優位。それほどトータル・フットボールが機能していたわけです。試合開始早々、オランダはPKで得点します。ただ、気持ちに緩みが生じ、必死に戦う西ドイツに逆転を許します。以降、徹底的にマークされたクライフは身動きが取れず、ゲームを失います。

地元開催のプレッシャーからか、苦戦のすえ決勝進出した西ドイツは、見事に下馬評を覆しました。そして、試合後、ベッケンバウアーの名言が飛び出したわけです。実は、この時、クライフも見事な言葉を残しています。「いくら技術に優れていても、上には勝者がいる。」世界を極めた両雄の相呼応する言葉は、スポーツの素晴らしさと厳しさを見事に伝えています。
1974年ワールドカップ決勝 ヨハン・クライフ(左)とフランツ・ベッケンバウアー  出典:jiji.com

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