2020年7月18日土曜日

老兵は死なず

老兵は死なず ただ消え去るのみ

1951年、ダグラス・マッカーサー元帥が、米国議会で行った退任演説の有名なフレーズです。日本におけるマッカーサー人気も相まって、知らぬものとていない名文句。退任、定年等の挨拶では定番となっています。なんとなく格好いいので使われますが、本当の意味はよく分からないフレーズです。

まず元歌がいまいち不明。マッカーサーは、単に「当時、最も有名だった軍歌の一つ」と言っているだけです。これだろうと推定される歌はあります。兵卒がみじめな軍隊生活を自嘲的に歌っているだけです。「(その歌は)大いなる誇りをもって『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』と宣言しています」とマッカーサーは続けます。「兵隊さんはかわいそうだね」的な歌を、誇り高くとは言わないでしょうが、恐らく、一兵卒として国に尽くしてきた、あるいは命令に忠実であった、ということをアピールしたのでしょう。そしてマッカーサーにとって大事だったのは、歌全体の内容ではなく、リフの言い回しだけだったと思われます。

「老兵は死なず」とは、戦場を生き抜いたから老兵だということなのか、歴戦の老兵は簡単には死なないぞということなのか、よく分かりません。もっと難しいのが「ただ消え去るのみ」です。単に勇退するということなのか、あるいは自嘲的にどうせ消耗品ですよ、と言いたいのでしょうか。少なくとも日本では、へりくだって自分を老兵と呼びつつ「それなりに戦ってきました。まだ元気ですが、勇退の時を迎えました」といった意味で使われています。マッカーサーは、どんな意味で使ったのでしょう。

マッカーサーの真意は、歌自体を研究しても分からないと思います。単にリフを利用しただけであり、リフに秘めた真意がすべてだと思います。赫々たる戦果を挙げつつも、統制違反でトルーマン大統領から解任されたマッカーサーのくやしさ、そして解任されても大統領選に出馬するぞ、という、ある意味、トルーマンへの挑戦状なのでしょう。そう考えると、定年や退任の際の挨拶に相応しい言葉とは思えません。喧嘩売ってるようなものですから。
米国議会で退任演説を行うマッカーサー元帥  出典:sankei.com

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