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エンターテイメント色が濃くなければヒットしない韓国で、この映画が、なぜ大ヒットしたのか不思議です。多くの賞を受賞するいほどよくできた映画であることもあるでしょうが、韓国社会の過渡期を、かなり丁寧に描いたことが共感を呼んだのでしょう。また、近年、青瓦台の顔色をうかがうような作品が多い中、とてもフラットな描き方をしたことも新鮮さにつながったのでしょう。
時は、軍政から民政に移行し、国際化が進み始めた頃です。97年のIMF危機に向かって動き始めた頃でもあります。映画が、最も象徴的に描いているのは、家父長制崩壊の兆しです。それを思春期の少女の心の成長とリンクさせたところが、この映画が成功したポイントだと思います。家庭内の微妙な変化に加え、金日成死去、ソンス橋崩落、立ち退き反対、受験戦争といった道具立てが、きれいにリンクしていきます。
特に、ソンス橋崩落に、多くのメタファーを集約させることで、見事なドラマを構成しています。家父長制や男尊女卑に代表される古い韓国社会の崩壊、主人公に大人を伝える塾教師の死、不良ゆえにバスに乗り遅れた姉の幸運、社会秩序崩壊の兆しにおののく暴力的な兄等々。監督の力量の高さを感じさせます。ただ、思春期の不安定さを伝えるファースト・シェークエンスだけは、やや思い入れが強すぎて、浮いていたかもしれません。
写真出典:animoproduce.co.jp