伊藤忠商事の社是「三方よし(買手よし・売手よし・世間よし)」は、近江商人の訓えとして有名です。今でも通用する良い言葉ですが、実は昭和になってからの言葉です。近江商人は「近江泥棒に伊勢乞食」という言葉が残るほどですから、厳しい商売をしていたのでしょう。ただ、商いの根底には、三方よしに近い考え方があったのも事実だと思われます。そうでなければ、近江商人の成功もなかったのでしょうから。
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石田梅岩 |
千葉県の人気ナンバーワンの寿司屋は、回転寿司チェーンの「銚子丸」です。創業者の堀地速男は、鳴かず飛ばずの持ち帰り寿司店等を経営していました。お付き合いで米国研修へ出かけ、顧客満足度が大事と聞かされます。馬鹿なことを言うな、安く仕入れ、高く売るのが商売だ、と思ったそうです。ところが帰国後、自分は何が一番うれしいか、ということが気になり始めます。「おいしいね」と喜ぶ顧客の顔を見るのが、一番うれしいということに気づきます。そこで利益を削って、寿司ネタを大きくしました。顧客は大喜び、アッという間に千葉県ナンバーワンになりました。
商売は、儲けるために行います。利益を優先して当然とも言えます。しかし、商売も社会的分業の一部。世の中の役に立つから存在し、お客さまが必要とするから成り立ち、報酬を得ることができます。「先義後利」は当然の話です。問題は、実践できるかどうか。日々、それを意識して、自らを戒める仕組みも大事です。それが京都の商人哲学です。京都の若手経営者の多くは、稲盛和夫さんの盛和塾に参加しています。彼らの口癖は「そんなことしたら稲盛さんに叱られる」です。
写真出典:日本史事典.com