2020年6月22日月曜日

マオイズム

朝鮮戦争のおり、成功確率五千分の一と言われた仁川上陸作戦を成功させたマッカーサーは、一気に中国国境の鴨緑江まで軍を進めようとします。大統領選出馬をねらうマッカーサーが功を焦ったとも言われます。中国の人民解放軍が鴨緑江を超え、北朝鮮に浸透しているという情報は無視、あるいは過小評価されます。谷底の細い道を進む米軍は、山中に潜んだ人民解放軍によって待ち伏せされ、包囲殲滅されます。米国陸軍の忘られぬ教訓、カスター率いる第七騎兵隊が全滅したリトル・ビッグ・ホーンの戦いの再現でした。

防御戦には、大雑把に言って二通りの戦術があります。水際防御と縦深防御です。水際作戦は、例えば国境線に兵力を集中させ、敵を一歩も国内に入れない作戦です。破られたら終わりというリスクがあります。一方の縦深防御は、国境から何重かの防衛線を敷き、敵の浸透は許すものの、消耗させ、兵站を断ち、弱体化したところを叩くという戦術です。いずれも一長一短あり、状況や地形等によって選択されます。毛沢東思想の一部を成す人民戦争理論は、敵を懐深く誘い込み、包囲殲滅することが基本です。中国の広大な国土、人民解放軍とともに戦う膨大な人民を前提としていますが、朝鮮半島でも確実な成果をあげたわけです。

縦深防御は、英語でDefence in depthと言われるとおり、深さを確保できるほど、成功確率は高まり、損害も少なくできます。戦略的深度を確保するために、国境を拡大するという選択肢もありますが、国境の外から防衛線を敷設できれば、なお良しということなります。旧ソビエトの東欧諸国やイスラエルのヨルダン川西岸等も、それに当たると思います。中国も、国境を巡る争いに、武力を投入することに躊躇はありません。例え、相手が同盟国であっても幾度か戦火を交えてきています。

ガルワン渓谷
カシミール東部、チベット国境付近のガルワン渓谷で、30年ぶりに、中印が戦火を交えました。そもそも事実上の独立国家であったチベットの武力制圧も疑問です。緊張は、インド国境だけでなく、南沙諸島、尖閣諸島にもあり、インドシナ半島への浸透等も含め、中国の拡張政策は途切れることがありません。それは領土的野心とは異なり、いまだに防衛線拡張というマオイズムが至上命題化され、中国共産党自身の防衛線にもなっているからなのでしょう。
出典:pic.twitter.com/ZXoYEmOE4X
 

冷夏