豚肉に衣をつけてディープ・フライにしたのは、銀座の煉瓦亭が最初だと言われます。明治32年のことです。現在のとんかつの調理法は、昭和4年、御徒町のポンチ軒の発明とも聞きます。いずれにしても、とんかつは、洋物のカツレツとは異なる日本の食文化です。私は、常々、とんかつは、人を本当に幸せにする食べ物の一つだと思っています。天皇の料理番として知られる秋山徳蔵は、カツレツの美味しさに衝撃を受け、料理の道に入りました。とんかつではありませんが、カツレツが与えた衝撃は理解できます。香ばしい油と衣、豚肉のうまみ、脂身の甘さ、ボリューム感、それらが幸せ中枢をダイレクトに襲います。

派生メニューも多いとんかつですが、カツどん、カツカレーが両巨頭。いずれも、うまいとんかつが基本ではありますが、実は出汁のうまさが大きな要素だと思います。カツどんは、銀座「梅林」がうまいと思うのですが、決め手は出汁だと思います。地方によってはソースカツどんもありますが、どうもピンときません。ついでに言えば、関西の牛かつもあっさりしすぎてピンときません。神戸の廣野ゴルフ倶楽部のヘレかつサンドだけは格別ですが、決め手はソースのうまさではないかと思っています。
丸五のとんかつ 写真出典:kyah.blog.jp