2020年6月19日金曜日

とんかつ

いわゆる名古屋めしは様々ありますが、意外と知られていないのが「焼きとんかつ」です。鈍池のオゼキ、今池のたいら等、隠れた名店は、いつも混雑しています。要は、衣をつけた豚肉を鉄板で揚げ焼きにしたものです。これが香ばしく、薄い衣がちょうどいい加減で、うまいのです。ただ、冷静に考えると、フランスから伝わった揚げ焼きであるコートレットを、油の中で揚げるディープ・フライに進化させたのが日本のとんかつ。焼きとんかつは、先祖返りしたコートレットそのものであり、焼きとんかつとは実に妙なネーミングです。

豚肉に衣をつけてディープ・フライにしたのは、銀座の煉瓦亭が最初だと言われます。明治32年のことです。現在のとんかつの調理法は、昭和4年、御徒町のポンチ軒の発明とも聞きます。いずれにしても、とんかつは、洋物のカツレツとは異なる日本の食文化です。私は、常々、とんかつは、人を本当に幸せにする食べ物の一つだと思っています。天皇の料理番として知られる秋山徳蔵は、カツレツの美味しさに衝撃を受け、料理の道に入りました。とんかつではありませんが、カツレツが与えた衝撃は理解できます。香ばしい油と衣、豚肉のうまみ、脂身の甘さ、ボリューム感、それらが幸せ中枢をダイレクトに襲います。

厚切りで柔らかい肉とサクッと香ばしい衣というのが伝統的な優等生タイプだと思います。加えて、近年では、低温揚げ、無菌豚という新たなトレンドがあります。低温揚げは、肉がジューシーで柔らかく、衣はあっさりとしています。最近、ランキング上位の店は、いわゆる白いとんかつ系、低温揚げが多いように思います。高田馬場の「とん太」や阿佐ヶ谷に越した「成蔵」などは大行列店。無菌豚系は、レアな揚げ感が魅力。「檍」が有名ですが、大森の「鉄」は私のお気に入り。私の大好きな店は、やはり秋葉原の「丸五」、両国「長谷川」、水道橋「かつ吉」あたりでしょうか。

派生メニューも多いとんかつですが、カツどん、カツカレーが両巨頭。いずれも、うまいとんかつが基本ではありますが、実は出汁のうまさが大きな要素だと思います。カツどんは、銀座「梅林」がうまいと思うのですが、決め手は出汁だと思います。地方によってはソースカツどんもありますが、どうもピンときません。ついでに言えば、関西の牛かつもあっさりしすぎてピンときません。神戸の廣野ゴルフ倶楽部のヘレかつサンドだけは格別ですが、決め手はソースのうまさではないかと思っています。
丸五のとんかつ  写真出典:kyah.blog.jp

マクア渓谷