2020年6月18日木曜日

サンバ・サラヴァ

私が、最も多く見た映画は、クロード・ルルーシュ監督の「男と女」(66年)。ビデオもDVDもない時代、映画館で30回近く見ています。当時、すべてのシェークエンスが頭に入っており、映画文法の基礎を学んだように思いました。無名作家による低予算の自主製作映画は、いきなりカンヌでグランプリ、そしてアカデミー外国語映画賞を獲得、世界中で大ヒットします。フランシス・レイの主題歌も、知らぬ者とていない大ヒット。さらに、欧州では、もう一曲大ヒットしました。挿入曲「サンバ・サラヴァ」です。この映画で一躍有名になった役者で歌手のピエール・バルーが持ち込み、ヨーロッパにボサノヴァを広めた曲と言われます。

「サンバ・サラヴァ」は、ヴィニシウス・ジ・モライスが、ギタリストのバーデン・パウエルと作った曲です。「サラヴァ」は、神の祝福を、という意味ですが、ブラジルの黒人奴隷たちがキリスト教化するなかで生まれた言葉だそうです。ジ・モライスは、アントニオ・カルロス・ジョビンと共に、59年の「シェーガ・ジ・サウダージ(邦題:想いあふれて)」でボサノヴァを生み出しました。彼は、国連大使も務めた高名な外務官僚でもありました。クーデターで誕生した軍事政権から左翼的とみられたジ・モライスは、海外に飛ばされ、フランスに駐在します。そこでフランシス・レイやピエール・バルーと親交を結び、ボサノヴァを伝えます。

ジ・モライスを左遷させた軍事政権が、ヨーロッパにボサノヴァを広めたとも言えます。ただ、軍事政権は、ブラジル国内で、ボサノヴァを退廃的だとして弾圧します。ボサノヴァは殺されたとも言われますが、もう一組、ボサノヴァを殺したと言われる連中がいます。誕生間もないボサノヴァは、映画「黒いオルフェ」のヒットや、クール・ジャズのスタン・ゲッツが「イパネマの娘」を大ヒットさせたことで、全米の音楽シーンを席捲します。ところが、直後、英国から登場した長髪の4人組にすべて持っていかれました。ビートルズです。

ボサノヴァは、知的で都会的な人々の間で根強い人気がありますが、ブラジル国内では、弾圧の影響でマイナーな存在になっていると聞きます。ところが、2016年、リオ・デ・ジャネイロ・オリンピックの際、マスコット名を公募したところ、ヴィニシウスとトムに決まります。ヴィニシウスはジ・モライス、トムはアントニオ・カルロス・ジョビンのことです。リオの人々は、ボサノヴァを生んだ二人を忘れていませんでした。
写真出典:banger.jp

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