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奇才キム・ギドクの作品は、概ね観念的な図式に基づいて製作されているように思います。ただ、ストレート・タイプとブレンド・タイプに分かれます。ブレンド・タイプは、エンターテイメント性やドラマ性がブレンドされたタイプで「悪い男」や「嘆きのピエタ」等です。対して、図式が全面に出るストレート・タイプは、例えば「絶対の愛」や「メビウス」等です。今回の「人間の時間」は、ストレート・タイプ。図式をグイグイと突き詰めていきます。ストレート・タイプを映画として成立させるためには、映像の魅力や幅広さにこだわり、表現をよりドラマティックにする必要性があります。

「我々人間は、DNAが乗り継ぐ舟に過ぎない」とは、確か英国の生物学者の言葉だったと記憶します。その継続する連鎖のなかで、母親の役割は大きなものがあります。作品中、神のようにも見える老人は、実は時間なのではないか、と思います。「もうだれの子供でも関係ないわ」と母性の象徴と化したイブ(藤井美菜)を時間が助けるという図式に見えます。欲望渦巻く人間社会の中で、母性だけが時代を乗り越えていく、という母性礼賛なのかもしれません。
乗り捨てられるただの舟かと思えば、多少悲しくもなります。ただ一方で、きわめて優秀なDNAは、なぜ恒久的に使える舟を作らないのか、という疑問もあります。それは、おそらく変化に対応するために、その都度、その環境下で最強の舟を乗り継ぐということが目的なのでしょう。どこか母の強さに通じるものがあるようにも思えます。
写真出典:dolly9.com