
石膏でできた偽物と報道されても、後から後からと見物人が詰めかけ、ハルは大儲け。これに目を付けたのが、興行の神様P.T.バーナムです。バーナムは、サーカスと見世物小屋(フリーク・ショー)と珍獣動物園を合体させた大サーカス団を作り、専用列車で、全米と欧州を巡業しました。世界一と言われたリングリング・サーカスです。バーナムは、巨人を譲れとハルに迫ります。しかし、断られたため、自分で作ることにします。こうして「コロラドの巨人」がロッキー山脈で「発見」されます。
理解できないのは、学者が偽物と言っても見物客が絶えなかったことです。ましてや柳の下のどじょうまで登場して、客を集めるわけです。なぜなのでしょう。学者から、巨人が偽物だと言われたバーナムは「There's one born every minute.」とだけ答えたと言います。直訳すれば、1分毎に生まれる奴がいる、となりますが、その意味は「世の中にバカはつきない。」
それが興行師の本音であり、見世物小屋の長い歴史を支えてきた真実かもしれません。情報の少ない時代だったから、とも言えそうです。ただ、この時期に限って言えば、むしろ、情報が増えたから人が集まったとも言えるのではないでしょうか。産業革命が生み出した植民地と蒸気船は、世界を狭くしました。探検家たちも大活躍し、世界中から珍奇なものが集まります。また、紙が安価に生産され、印刷機が飛躍的に効率を上げた時代、多くの印刷物、つまり情報が出回ります。人々は、エキゾティズムという麻薬に染まり、より珍しいものを求めたわけです。バーナムの興行は、産業革命が生み出したとも言えそうです。あるいは、啓蒙主義が末端まで届いた、というべきかも知れません。
発掘直後のカーディフの巨人 出典:wikipedia