2020年6月13日土曜日

新聞大国

NYで働いていた頃、郊外の家から電車でマンハッタンに通っていました。乗車時間は約1時間。確実に座れることもあり、朝夕は、新聞を買って乗り込みます。もちろん、ネット以前の話です。

朝は、New York Timesを読みます。全国紙が、USA Todayだけという米国では、経済紙Wall Street Journalと並ぶ大新聞です。これが、なかなかすんなり読めないのです。難しい単語、凝った構文が多く、毎朝、自分の英語力を嘆いていました。夜、帰宅時には、大衆紙New York Postを買います。これが、実にスラスラ読めるわけです。内容も、単語も、構文も分かりやすく、妙に短縮した単語も、例えばPresidentはPrez、nightはniteといった具合ですが、ストリート・イングリッシュそのもので馴染みやすいものがありました。自分の英語力もまずまずと自信を持って帰れました。もちろん、翌朝には、また打ちのめされるわけですが。

驚かされたのは、スーパーマーケットのレジ横の新聞売り場です。週刊新聞の類が売られていました。典型的には「ついに発見!火星人と結婚した女」といった見出しです。売れるから置いているわけで、買う人たちはどこまで信じて読むのか、実に不思議でした。思えば、日本では、多くの人たちが、全国版の朝刊紙、あるいはミニ全国紙的な地方紙を読んでいます。すごいことではありますが、やや異常とも言えそうです。米国の多様性の方が、まだ納得できます。

日本最初の日刊紙は、明治2年創刊の「横浜毎日新聞」です。新聞は、明治政府の後押しもありましたが、日清・日露戦争を契機に発行部数を急増させたようです。従来の論説型から報道型に変わったためと言われます。そもそも日本で新聞が急速に普及した背景には、識字率の高さがあります。戦国時代に来日した宣教師たちも、識字率の高さに驚いています。江戸末期の就学率は80%を超えていました。戦後、GHQが識字率向上のために、日本語のローマ字化を計画します。しかし、調査した識字率が高く、計画を断念したという話まであります。

日本が新聞大国となった理由は、識字率の高さに加え、早くから宅配、月決めという世界的には少数派の仕組みを採用したこと、そして拡張員と呼ばれる訪問販売員の存在が大きかったものと思われます。今でも、読売新聞は世界一の発行部数を誇りますが、洗剤をもってバイクで家々を回る販売員の長年の努力の賜物なのでしょう。ネット化が進む新聞ですが、日本のペースは世界平均より緩やかだと聞きます。
新聞配達員  出典:pressnet.or.jp

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