2020年6月12日金曜日

「コリーニ事件」

2019年ドイツ 監督:マルコ・クロイツパイントナー

☆☆☆☆

とにかく、まずは原作がとても良い。2011年の大ベストセラー、フェルデナント・フォン・シーラッハの「コリーニ事件」。シーラッハは、現役の高名な弁護士にしてベストセラー作家。祖父がヒットラー・ユーゲントの最高指導者。本作のプロットであるドイツ法制上の問題点について、国が調査委員会を設定したほど、社会に影響を与えたといいます。

フランコ・ネロ 出典:crank-in.net
ベストセラーの映画化は、どうしてもストーリーを追いがちで、演出は凡庸になってしまう傾向があるように思います。しょうがないのかも知れませんが、ややTVっぽい感じです。ドラマチックに仕上げたい気持ちはわかりますが、原作のプロットのすごさ、法廷のリアルさ等を考えれば、もっと抑えた、ドライなテイストの方が効果的だったのではないかと思います。

平凡な演出を、カバーして余りあるのがフランコ・ネロの演技。というか、存在感のすごさです。往年のジャンゴ役者、マカロニ・ウェスタンのヒーローは、歳を重ね、実にいい味を出しています。表情だけで、終わることのない戦争の悲惨を表現しています。フランコ・ネロが、本作の出来に及ぼした影響は、とても大きいと思います。

それにしても、ドイツの過去との向き合い方、あるいは法に対する厳格さには、本当に頭が下がります。一方で、ドイツは、ナチスとホロコーストをスケープゴートにして、戦争責任を回避してきたという見方もあります。例えば、ドイツはナチスの犯罪被害を受けた自国民への補償のみ行い、侵略した国への賠償は行っていません。背景には、戦勝国の足並みが揃わなかったこともありますが、戦後、旧ドイツ領から追放されたドイツ人への補償問題もあります。ナチスに関する追及についても、特別な法律があるのではなく、あくまでも通常の法体系のなかで行われています。また、ナチス追及も、東西冷戦構造のもと、あいまいになった経緯もあります。故殺、故殺ほう助の時効問題も、その文脈のなかにあります。

そもそもニュルンベルグ裁判、東京裁判といった国際軍事裁判も、事後法ではないか、人道というなら原爆投下、シベリア抑留も裁かれるべきではないか等々、今もその正当性が議論されています。戦争を裁くことは、極めて難しいテーマだと言えます。ただ、ドイツ人のように厳格に向き合い続けることが重要だと思います。

マクア渓谷